事例1:牛の個体データから人工知能で異常を検知する
「U-motion」と損害保険サービスの連携
24時間365日、牛の健康状態をリアルタイムで把握し、行動データにより人工知能が牛の異変を自動で検知する人工知能搭載型牛群管理システム「U-motion®(ユーモーション)」。開発したのはデザミス(本社・東京/清家浩二代表取締役兼CEO)というスタートアップだ。
乳牛にしろ肉牛にしろ牛は1頭ずつ、重さ約130グラムのセンサーを首に掛ける。センサーには気圧センサーと加速度センサー、通信基板が納められている。2つのセンサーだけで牛の6つの行動、つまり「動態(動いている)」「横臥(おうが)」「起立反芻(はんすう)」「横臥反芻」「起立静止」「採食」の動向をリアルタイムで捕提する。データは牛舎内のレシーバーを経由してクラウドサーバーに集約される。
鎌倉知紗 次長
「牛は、食べた時間と同じ時間だけ反芻しており、それは健康のバロメーターとなります。6つの行動データを逐次つかみ、いつもと様子が異なるような場合、疾病や発情などの異常を検知してアラートを発します」(デザミス:鎌倉知紗経営企画室次長)。
異常検知のベースになるのが、クラウドサーバーに集められたデータを解析する人工知能だ。例えば「活動時間が長く、反芻時間が短くなると発情の兆候」「活動時間も反芻時間も短くなると疾病の兆候」といった具合に独自の指数で計算し、判断する。
2016年の会社設立以来、すでに10万頭の牛がモニタリングされている(ちなみにサービスは1頭当たり月額約780円※で、6年間のレンタル契約になる)。契約頭数が増えれば増えるほど人工知能の解析精度は増す。
※上記価格はあくまで目安。現地の電波状況、牛舎の構造によって変動する。
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国内には乳牛・肉牛を合わせて約390万頭がいる(放牧牛を除く)。市場は大きく、人工知能の解析精度が飛躍的に上がる可能性もある。
「牧場ごとに独自のノウハウがあり、牛の個体差もありますが、農家の方と一緒になって解析精度の向上に努めています。大規模牧場ではもちろんのこと、飼養頭数が30頭ぐらいの兼業農家でも牛を世話できる時間を十分に確保できない場合にU-motionの利便性を高く評価していただいています」(鎌倉次長)
そしてU-motionの将来性に注目したのが三井住友海上火災保険だった。U-motionを付ける牛1頭ごとに保険を付帯した「牛の診療費補償サービス」を20年4月から始めた。
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牛が家畜共済の疾病傷害共済の補償対象となった場合に、組合員の1割負担部分を三井住友海上が支払う。つまり診療費の全額が家畜共済金と損害保険金によって補償されるのだ。保険はU-motionに自動で付帯されるので畜産農家の保険料負担はない。
商品開発に当たった三井住友海上火災保険公務開発室の宮岸弘和課長代理は、「牛の疾病保険などの引き受けは、診療データが取れないので実質的に無理でした。しかし、デザミスのデータを担保とすることで保険設計が可能になりました。ビッグデータが保険を開発できるバックボーンとなります」と話す。
畜産農家の大規模化が進む中で、個体の適切な管理と、その効率化は、畜産経営に不可欠となり、テクノロジーとデータ、そして保険が次世代の安心な畜産経営をもたらすと考えているのである。