事例2:VCも農林水産・食品分野への投資意欲を高めている
伊藤毅 代表取締役社長
東京工業大学大学院修了。2003年ジャフコに入社し、2008年から産学連携投資グループ責任者としてシードステージの大学発技術シーズの事業化支援や投資活動をリード。2014年にBeyond Next Venturesを設立、代表取締役社長に就任。
さまざまな分野での革新的な事業を支援するベンチャーキャピタル(VC)も、農林水産・食品分野への投資を始めている。「『「知」の集積と活用の場』 産学官連携協議会」の定時総会に、「日本を取り巻く投資環境と農業シーズの事業・スケール化」をテーマにゲストとして招かれたBeyond Next Ventures(本社・東京 伊藤毅社長)もそうした一社だ。
同社は、大学で産学連携や起業を支援してきた伊藤社長が、主に大学発のシーズのビジネス化を支援するVCとして2014年に設立した。現在、2つのファンドで40社に投資している。
VCの投資先といえば、ITや医療の分野が主で、Beyond Next Venturesも同じ様な傾向にあるが、投資先のうち6社が農林水産・食品関係であるのが同社の特徴の一つにもなっている。細胞を培養して人工肉を製造するインテグリカルチャー社や、接ぎ木技術やゲノム編集技術を活用して新種苗の開発を行うグランドグリーン社などが含まれている。
農林水産・食品分野への投資の可能性について伊藤社長は、「アグリテックやフードテック領域は、デジタル技術の発展により、その高度化と効率化が着実に進んでおり、決して遅れた分野ではありません。今後もデジタル技術をはじめ新たな技術がこの業界に浸透するのは間違いなく、だからこそ大学発のシーズをビジネス化していける可能性も強まっているのです」と説明する。
有馬暁澄 アグリ・フードテックリードキャピタリスト
慶應義塾大学理工学部卒業。2017年、丸紅に入社。穀物本部でトレーディング事業やスタートアップ投資に従事。19年にBeyond Next Venturesに入社。アグリテック・フードテックなどライフテック全般の投資を担当。
Beyond Next Venturesで農林水産・食品分野への投資と企業支援を担当している有馬暁澄氏は、「魚の養殖技術やバイオ関連など、これからの”食の未来を創造する”テクノロジーはさらに実用化が進んでおります。一方で市場に出せたとしても、販売先の開拓や消費者へのアピールなどさまざまな経営課題が浮上しているのも現状です。われわれとしては、投資活動や投資先の戦略策定だけでなく、経営を担える人材の派遣など周辺のさまざまな支援サービスの提供にも力を注ぎたいと考えています。また、農林水産省様をはじめ、民間企業を含めたさまざまな機関と連携し、アグリ・フードエコシステムを作り上げていくことが大切だと考えています」と語る。
『「知」の集積と活用の場』では、研究成果の事業化・商品化等に向けた支援にも力を入れていることとしており、VCとの連携がより重要になっていると言えよう。
有馬氏は、「技術とビジネスの両輪をバランスよく回せる人は、まだ農林水産の世界では少ないように思えます。サプライチェーンの全体図をしっかりと把握し、かつビジネスと社会課題を連携させていくような能力が求められています」と指摘する。
伊藤社長も「日本は国土が狭いので大規模なスケールを追求したビジネス化には限界があります。海外でも売るという国際競争力の視点を開発の初期段階から持ち、より付加価値を高めていく取り組みがあれば、日本の食は産業的にも投資家にとっても極めて有望な分野になるでしょう」と語る。
農林水産・食品分野にITやサービス、金融など他分野の視点が加味されることで、『「知」の集積と活用の場』はより大きな広がりと深みを備えてくるのは間違いない。