なぜかというと、小池氏が「他県に行くな」と呼びかけたからだ。

 小池氏の呼びかけを支持する人たちにとって、自分たちの愛する地元にやってきた東京都民は、「都知事の呼びかけを無視した身勝手な愚か者」という扱いになる。自己中心的なふるまいで他人を不安・不快にさせた愚か者に対して、どんなにひどい言葉を投げかけたり、嫌がらせをしたりしても、「正義の裁きなのでお咎めなし」と考えるのが日本社会で半ば常識のようになっていることは、木村花さんへの壮絶なネットリンチを見ても明らかだ。

 つまり、これから東京都民が地方で遭遇する差別、嫌がらせなどの有形無形の暴力に、小池氏の「他県への移動はご遠慮ください」という言葉が、お墨付きを与えてしまったような形なのだ。

あえて「悪手」を選んだ
小池都知事の深謀遠慮

 そこで不思議なのは、なぜ小池氏のような経験豊富な政治家が、こんな愚かなことをしたのかということである。

 断っておくが、「都民の移動制限」自体が愚かだと主張しているわけではない。「呼びかけ方」が愚かだと言っているのだ。

 もし東京都知事として、心の底から「都民を他県に移動させなければ、感染者数を抑えられる」と判断したならば、政府にちゃんとかけ合って、正当な手続きを踏んでアナウンスをすればいいだけの話である。しかし、小池氏はそのような根回しもせず、いきなり政府の方針を全否定し、ダブルスタンダードの状態をつくって、都民のみならず全国民を混乱させた。

 そして、これが「東京差別」を助長する悪手であることを、世論操作に長けた小池氏ならばわからないわけがない。にもかかわらず、小池氏がそのようなやり方に踏み切ったのはなぜか。

 いろいろなご意見があるだろうが、筆者は「選挙」のためだと思っている。と言っても、先頃終わった都知事選ではない。永田町で「今秋にもあるのではないか」とささやかれている解散総選挙で、自民党にダメージを与えるためだ。