変革時代に求められる
リーダーの自己認識力

 先ほど、業界の収れんが進んでいるとのお話でしたが、競争の構図が大きく変わる中、企業が生き残りを図るために何をなすべきでしょうか。

 キーワードとなるのが「トランスフォーメーション」だと考えています。

 従来とは異なる製品やサービスを提供する企業へとトランスフォームすることで、いままでよりもさらに顧客に近づくことが、多くの企業に求められるのではないでしょうか。

 トランスフォーメーションを実現するうえで、CEOに求められる思考や資質は何だと思いますか。

 これからのCEOの重要な資質として「自己認識力」を挙げたいと思います。

 業界を超えた競争が激しさを増す中でリーダーに必要なことは、さまざまなスキルを持った人材を確保し、最高のパフォーマンスを発揮するチームを結成してリードすることです。そのためには自社の強みと弱みをしっかりと自己認識し、多様なスキルを持ったメンバー同士が相互補完し合うようなチームをつくろうという意志と能力が必要です。

 そしてCEOがマネジメントに成功するか否かのカギを握るのは、多様性を受け入れる文化だと思います。性別、経験、文化、思想など、あらゆる面での多様性は、組織の創造性を高め、潜在能力を発揮させることとなるでしょう。多様性を認め、個人ではなくチーム力の向上にリーダーシップを発揮する人こそが、これからの時代のCEOといえるのではないでしょうか。

 タレントマネジメントに関連して、多くの業界でパラダイムシフトが起こる中、新たなスキルを持つ人材の獲得も大きな課題ではないでしょうか。

 おっしゃる通り、タレントマネジメントはいままで以上に重要性を増しています。今日のCEOに求められる重要な役割の一つは、必要なスキルがどんどん変化していく時代にあって、必要なスキルセットを社内に備えていくことです。多くの企業が有能な人材を求めているので、獲得競争は激しさを増しています。こうした中で人材を確保するためには、企業が将来必要となるスキルを予測する努力を怠らないこと、そして、有能な人材を惹き付けるさまざまな施策が不可欠です。

 しかし、最も重要なことは、イノベーションに富み、クリエイティブな人材が育つカルチャーを醸成することです。そうした中から新たなパラダイムに対応できる人材や、みずからパラダイムをつくり出す人材も生まれてくることでしょう。

 そのためにはCEOみずからが、社員に求める価値観を明示しなければなりません。そして社員が一生懸命に頑張った結果、マーケットや社会の発展に貢献することを実感すれば、さらにクリエイティブな業務へのモチベーションが高まり、こうした好循環が繰り返されることにより新たなカルチャーがつくられていくことでしょう。

 最後の質問です。御社ではビーマイヤーさんが中心となり、子どもたちに数百万冊の本を贈る社会貢献活動を行っていますね。日本のCEOに向けて、贈りたい本を選んでいただけませんか。

 一冊を選ぶなら Itʼs Your Ship(日本語版は『アメリカ海軍に学ぶ「最強チーム」のつくり方』マイケル・アブラショフ、三笠書房)を贈りたいですね。この本は先日、同僚にも薦めた良書です。著者は元海軍の船長です。海軍の中で成績が最悪の船を短期間で改善し、最優秀賞を受けるに至る過程が書かれている本です。組織にはいろんな人がいて、いろんな役割を果たしている。でも、みんな各人各様、よりよいものを目指して組織で働いているわけです。タイトルの通り、「これはあなたの船ですよ」という意識をすべての乗組員に植え付け、成功に導いた実話です。

 わかりやすい内容ですし、著者のリーダーとしての力強さが伝わってきて、とても気に入っています。日本の経営者にとってもさまざまな学びが得られると思いますよ。


  1. ●聞き手・構成・まとめ|松本裕樹(ダイヤモンドクォータリー編集部) ●撮影|中川道夫