同業種から異業種へ
M&Aの目的に変化の兆し

 業界同士の収れんが進む中で、異業種へのM&Aなどがこれからさらに増えていくのでしょうか。

 М&Aの増加傾向はしばらく続くでしょう。世界的に比較的低成長の環境にありますので、М&Aを成長の糧にしようと考える企業は今後も多いと思います。

 注目すべきはМ&Aの目的に変化の兆しが表れているということです。

 従来は、同業種の企業同士のМ&Aが多く、その目的の大半は規模拡大により市場の支配力を高めることにありました。

 ところが今日では、自社にはない新たな技術、知財、人材などを獲得することを目的とした、異業種同士のМ&Aがかなり増えています。そうして得た資産をイノベーションの源にして成長を目指そうとしているのです。

 それゆえ、企業がМ&A戦略を検討する際の発想も大きく変わりつつあります。コア事業同士のみならず、コア事業の領域外も視野に入れ、コア事業と結び付けることで役立つ企業を買収検討するケースが増えています。

 実際、当社でもこの数年間でさまざまな企業を買収してきましたが、その中には、データサイエンス企業など、従来の事業領域とは異なる分野の企業も少なからずあります。

 欧米に比べて日本企業の多くは、M&Aよりもオーガニックな成長を目指す傾向があるともいわれます。

 グローバルCEO調査では、「今後3年間の優先事項」について質問しているのですが、世界の主要国のCEOは「イノベーションの促進」や「顧客志向の強化」などの事業強化につながる項目を挙げました。

 ところが、日本のCEOは「投資家報告の妥当性の向上」「業績評価の適正向上」など、管理体制の強化を優先しているのです(図表2「今後3年間の戦略的優先事項」を参照)。

不確実性時代のトランスフォーメーション
 

 とはいえ、日本の人口構造を見れば、国内の消費者数は将来にわたって縮小していくのが必至ですから、5~10年先を考えれば、多くの企業が海外展開を拡大するのは間違いないでしょう。 

 実際、日本のCEOは自社の成長について非常にアグレッシブに考えています。今回のグローバルCEO調査とは別に、製造業にも調査を行いました。すると、「積極的に成長を追っていく」と答えたCEOは、アメリカは約10%だったのに対し、日本は約40%にも上りました。多くの日本企業が今後、海外での販路拡大などのために、オーガニックな成長のみならずМ&Aを活用することになるだろうと思います。

 М&Aは経営者にとって大きなリスクを伴います。成功するために重要なことは何でしょうか。

 M&Aにおいては、両社の統合こそが最も難しい作業であるにもかかわらず、多くの企業は買収後の企業文化やオペレーションの統合について軽視しがちです。当然のことですが、合併しただけでは期待したような効果は生まれません。両社の顧客、社内のプロセス、テクノロジーなどをいかに統合するかについて、あらかじめしっかりと考えておく必要があります。

 事業や人員などの目に見える部分のみならず、社内文化などの目に見えない部分の融和も課題となります。

 そのためにはまず、両社の強みや弱みなどの状況をしっかりと認識することが大切です。そしてCEOは目指すゴールを明確にしなければなりません。

 ここで重要なのは、買収する側とされる側の双方が変わらなければならないということです。買収した企業が一方的に相手に変化を求めるケースの大半はうまくいきません。そもそも買収する目的は、自社が持っていない価値を得ることにあります。したがって、CEOには、買収した企業の優れた価値をきちんと評価し、それらを合併してできた新たな企業の強化に活用するという強い意志が求められます。