好奇心の旺盛さにも、いつも驚かされました。とにかく、常に「これは何だ?」と聞いてきます。山口県の萩に講演のため訪れたときのこと。山間の田んぼの中を車で走っていると、いきなり清張先生が、「あれは何だね?」。

 見ると、田んぼにプロペラをつけたペットボトルが。私が車を降りて畦道を通り、近くの農家の前に着くと、いつの間にか清張先生が横に立っています。「えらく速いな」と思って足元を見たら、ズボンが泥だらけです。待っていらなくて、田んぼの中をジャブジャブ横断して農家まで来たらしいのです。

「先生、これから講演なのにズボンがドロドロです」と言うと、「私の講演にファッションなんか興味ないでしょ」と涼しい顔。答えは「モグラ脅し」だったのですが、早速次の週の週刊朝日の連載小説に出てきていました。

刺し身コンニャクを
「うまい魚だ」と絶賛した文豪

 そしてその夜、萩の名宿に泊まり、宿が必死でつくった大ご馳走が出てきました。

 あんまり食べ物に興味がない先生が、「この白身魚の刺し身は美味しい。何の魚だ」と言い出しました。旅館の人は全員下を向いたままです。答えにくかったのでしょう、それが刺し身コンニャクだとは。

 とにかく書くことが大好きで、考え始めると他のことに気が回らなくなります。清張先生はご自宅でもいい着物を着ておられます。コーヒーとタバコが大好きで、時折茶目っ気を出して、少し厚めの下唇にタバコを横にのせて、ゲラを読んだりしています。

 応接室には、奥様が直接コーヒーやお茶を持ってきてくださるのですが、そんな瞬間、いい着物の上にタバコの灰が……。「あんた、またいい着物が焼け焦げよ」と奥様が怒り出す。目の前の夫婦喧嘩もなつかしい想い出です。