2018年2月。スイス・ジュネーブの世界保健機関(WHO)本部で2日間の会議が開催され、科学者グループは世界が直面している最も恐ろしい感染症の中で特に注意すべき疾患は何かを議論した。体液を流出させるエボラ出血熱や、脳の膨張を引き起こし、ほとんどの感染者が死亡するニパウイルス感染症、肺に入り込み、呼吸困難を生じさせる重症急性呼吸器症候群(SARS)の名前が挙がった。会議の終わりに科学者グループは「疾患X」を付け加え、リストを完成させた。疾患Xは科学者が長年、警告してきた病原体を表していた。動物から人間に伝播し、誰も気づかないうちに急速に広がる、処置の方法も治し方も分からない未知の病原体だ。科学者はそうした病原体の正確な遺伝子構造や出現の時期を予想することはできなかったが、いつか出現することは分かっていた。1990年代末以降、感染症が次々と流行したり、ニアミスが発生したりしたことに加えて、科学的調査が高度化したことで、感染症の世界的大流行(パンデミック)が避けられないことははっきりしていた。