レビュー
2017年10月、「ニューヨーク・タイムズ」紙が「ハリウッドの大物プロデューサーによる性的暴行」を報道した。これをきっかけに、性暴力の告発運動である「#MeToo」が巻き起こり、アメリカに留まらず世界的ムーブメントへと発展した。女性たちはソーシャル・メディアに#MeTooタグを付け、次々と過去に受けた性被害を告白していった。「#MeToo」運動は「自分が発言することが(誰かの)行動に繋がる」という、価値観の転換を促した。
本書『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』は、記事を担当したふたりの女性記者によるノンフィクションである。約400ページに及ぶ重厚な作品だが、あまりの展開に一気読みしてしまった。ハリウッドの有名女優やアカデミー賞に輝いた名作も多数登場し、まるで映画作品さながらであるが、胸を締め付ける内容の実話だ。
本作は「女性たちによる勇気の物語」に変わりない。一方で、声を上げることで負うリスクや副産物も描いており、単なる美談で終わらせていないところが素晴らしい。要約には入れられなかったが、「#MeToo」に後押しされた女性が「個人的なけじめ」として告発を決意する話も登場する。彼女は図らずも「時の人」に祭り上げられ、平穏な市民生活を脅かされてしまう。昨今問題となっている、SNSの誹謗中傷に通じるものがあると感じた。