コロナ以降の新しい「仕事の考え方」の指針となる書籍、『どうして僕たちは、あんな働き方をしていたんだろう?』の発売を記念し、その一部を変更して公開します。同書の著者は、シリーズ160万部超のベストセラーと『99%の人がしていない たった1%の仕事のコツ』などの著作をもつ河野英太郎氏。電通、アクセンチュア、IBMなどをへて、現在は急成長中のスタートアップ・アイデミーで執行役員として活躍する河野氏は、何度もその働き方や仕事への価値観を変えてきました。その経験を活かし、過去の「働き方」をBefore/Afterのストーリー形式で振り返ったのち、実際にどうすれば古い働き方を変えられるかというHow Toのアドバイスをしてもらいます。今回は「お客様は神様」という“間違った”精神から、「価値労働」へのシフトを解説します。

Before:顧客からの無理難題に応える力が評価された

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 田原稔は打ち合わせのテーブルで、答えに詰まっていた。

「明日までですか?」
「そう。できない?」

 時計をちらりと見ると、すでに15時を回っている。今からの「明日」だと、これから会社に戻ったあとすぐに調整を走らせるにしても、非常にシビアな状況だ。

「そうですねぇ……」

 あっさり受けないことは、発注側の徳田雄一もわかっていた。わかってはいたものの、受けてもらえないことには、自分も怒られてしまう。もっとも、本来はもう少し余裕をもって発注することもできたのだが、それは黙っていることにした。

「まぁ、厳しいことはわかるんだけど、なんとかしてよ。なんとかなるでしょ?お客様は神様の精神で頼むよ、ね!」

 徳田としても、引くわけにはいかない。先輩からも「押せばなんとかなる」と念を押されていた。

「おかしいなぁ、前の担当者は、これくらいの時間でも平気だったんだけど」
「……い、いえ!大丈夫です、いつもありがとうございます」

(今日は残業どころか、終電でも帰れないかもなぁ……)
 笑顔が少しひきつっていたかもしれない。田原は頭を下げ、顔をさすった。

After:顧客とも対等の関係に

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「え、できない?」
「はい。今からの時間では、明日は難しいです。これまでもかなり無理はしていましたが、さすがに難しいものは、難しいと言わざるを得ません」

 徳田雄一は、当然のように受けてもらえると思っていた発注が断られ、面食らっていた。

「いやいや、お客様が言ってるんだよ。なんとかしてよ」
「いえ、弊社も方針が変わりましたし、前回にも『これで最後』とお伝えしたはずです。現場としても負荷が増えるのは避けたく、通常の納期でしたら対応します」

 毅然として答える田原稔は、内心、どこかでホッとしてもいた。働き方改革の波もあり、会社全体で受注や仕事の進め方にも変化が起きていた。新しい役員の方針は、「クライアントとともに高めあい、クライアントとともに繁栄する」だった。

「今回のご依頼を受けてしまうとイレギュラーを作ってしまいますし、稼働費を考えるとうちも厳しいんです。ご理解ください」

 田原はサッと頭を下げた。徳田の顔は見えていないものの、ピリッと張り詰める空気は感じていた。