コロナ以降の新しい「仕事の考え方」の指針となる書籍、『どうして僕たちは、あんな働き方をしていたんだろう?』の発売を記念し、その一部を変更して公開します。同書の著者は、シリーズ160万部超のベストセラーと『99%の人がしていない たった1%の仕事のコツ』などの著作をもつ河野英太郎氏。電通、アクセンチュア、IBMなどをへて、現在は急成長中のスタートアップ・アイデミーで執行役員として活躍する河野氏は、何度もその働き方や仕事への価値観を変えてきました。その経験を活かし、過去の「働き方」をBefore/Afterのストーリー形式で振り返ったのち、実際にどうすれば古い働き方を変えられるかというHow Toのアドバイスをしてもらいます。第4回は、コロナ・ショック以前からその是非が問われていた、職場での「飲み会」がテーマです。

ストーリー編[Before]
上司からの頻繁な誘い。たしかに仕事に役立つこともあるけれど……

Photo: Adobe Stock

 時計の針は間もなく6の数字を指そうとしている。入社8年目の早坂直樹もノートパソコンを閉じた。妻が子どもを保育園へ迎えに行ってくれる日なので、自分は足りなくなった日用品を買って、急いで帰らねばならなかった。

「早坂、仕事は片付きそうか?終わったら一杯行かないか」
「あっ、野杉部長。えーっと……今日、ですか」

 早坂はスマートフォンをちらりと見て、答えをにごした。妻からのメッセージ通知には、買ってきてほしいものリスト、という文字が見えていた。

「いやぁ……せめて前日までに言っておいてもらえると助かるんですが……当日だと、ちょっと妻にも話さないといけなくて」

 野杉は、つれない返事に、いくらかムキになった。自分が早坂くらいの年齢だった頃、上司のお誘いは「絶対」だった。自分も妻に急いで連絡をして、謝った記憶が蘇る。

「まぁ、いいじゃないか。少しくらい遅くなっても大丈夫だろう?」
「いやいや、いつも少しって言って、結構深い時間になっちゃうじゃないですか」
「営業の飲み会は仕事みたいなもんだ。この前、部の飲み会にも顔出さなかったし、仕事の話もしたいから、まっ、行こうじゃないか」

 たしかに、部長との飲みで聞いた話は、仕事に役立つこともしばしばある。

「仕事だとしたら、残業代出ますか?」
「はっ?残業代?」
「ははは……冗談ですよ……それじゃあ、ほんとに一軒だけですよ!」

 椅子にかけてあったスーツの上着を手に、早坂はスマートフォンで妻にメッセージを送る。ようやく帰れたのは、日付も変わろうかという頃だった。

ストーリー編[After]
飲み会よりも、「おやつ会」「リモート飲み会」の時代に

 時計の針は、3の数字を指そうとしている。今日は部署内で集まり、1時間の「おやつ会」が開かれる日だった。時短勤務の人も、残業気味の人も、飲み会好きな部長も、誰もが参加しやすい会として企画されたものだった。

「早坂、仕事は一旦落ち着きそうか?」
「あっ、野杉部長!大丈夫です、すぐ行きます」

 早坂直樹はノートパソコンを閉じ、「ご自由にお取りください」と張り紙のしてあるクーラーボックスからアイスクリームを取り出す。いつも買うものよりリッチなものだ。それだけで気持ちもすこし高まる。

 野杉部長は全員の前に立つと、今日の「おやつ会」に際して、ごく短い挨拶を述べた。もし、改善したいところや、より良いアイデアがあったら、いつでも伝えてほしいと呼びかけている。

 早坂は、同期入社だが、今は子育て中で時短勤務をしている同僚と話をした。外回りも多いせいで時間が合わず、最近はあまり話せていなかったのだ。話していて浮かんだアイデアを、早速、野杉部長へ伝えに行く。

「部長! おやつ会もいいのですが、たまにはお酒も飲みたいでしょうから、今度の上半期の締め会はリモート飲み会でも開いてみませんか?」
「なるほど、それならみんなも、参加しやすいかもしれないな」
「せっかくなら、みんなで同じおつまみや飲み物を揃えてみるのはどうかなと」
「面白い案だな。よし、次はそれでいこう。幹事と相談してみる」

 妻にお願いはしなくてはならないが、気持ちはずっとラクだ。早坂は、やや重荷に感じていた上半期の最終日を、ポジティブに見られるようになっていた。

[How To]
飲み会が果たしていた機能を意図的に補完する

 ケーススタディでは部下の彼も、飲み会をかわそうと必死……あちこちの職場でもひっそりと繰り広げられている攻防戦でしょう。

 私が大学を出てから電通に勤めた1997年頃、職場での飲み会は日常茶飯事でした。会社を21時に出たら、基本は得意先を交えた「接待」の飲み会を経て、午前3時頃に社員寮へ帰る生活です。次の日も、新入りは早めに出社しなければいけませんでしたから、体力的にもかなり苦しかったのを覚えています。

 ただ、先輩には「飲み会で得意先や同僚とネットワークを作り、情報を取ってきなさい」とも言われました。たしかに、その意識で参加してみると、広告企画の裏話や名物社員の伝説的なエピソードなど、仕事中では耳にできない情報も数多くあったように思います。言い換えるならば、良くも悪くも、口伝のような形でスキルの交換が行われていたのです。先輩たちが自分の失敗を反面教師とすべく、語ってくれた面もありました。

「飲みニケーション」という言葉があるように、飲み会でコミュニケーションの量が増えるのは間違いありません(質は参加者に左右されますが)。身振りや手振り、話し方といったノンバーバルコミュニケーションも含めると、業務時間中だけとは比べものにならないほどの量が得られます。

 たしかに、飲み会を経て、上司や同僚の異なる一面を見ることで、翌朝から打ち解けられたり、付き合い方が良い方向へ変わったりすることもあります。それには「量」が効いたといえるでしょう。

 ひるがえって、働き方が多様化し、テレワークも推進されるようになった現代では、時間や環境を問わず、誰でも働ける組織が求められています。ところが、そういった組織では、1つの問題が起きやすくもあります。それは、社員間のコミュニケーション「量」に差が生じやすいことです。

 たとえば、従来型の飲み会の多くは夜に開催されます。育児などの理由で時短勤務をしている人は、参加さえ難しいケースが珍しくありません。飲み会がインナーサークル的になり、その場でだけ人事情報がリークされたり、機密性の高いネットワークが形成されたりすると、社員間の情報格差や不均衡につながりやすくなってしまいます。

 最近ではそれらを防ぐために、各社の模索が続いています。「出社していても、会議はすべてオンラインで行う」という取り決めをしている企業もあると聞きます。リアルで話せる人と、リモートで参加する人で、情報の不均衡を起こさないための工夫ですね。

 とはいえ、やはり「飲み会をしたい!」という声も根強くあります。

 そこで最近では「飲み会も仕事」という社員の気持ちを汲み、実際に残業代をつけるケースもあるようです。全てにおいて適用するのは難しいと考えますが、現代では「残業代ありの飲み会」も実施されていることだけは知っておいてもいいでしょう。

 また、「アルコール・ハラスメント」という言葉もあるように、特に上司世代は酒席での振る舞いにも一層気をつける必要があります。飲み会の相手も、得意先や出入り業者など、職場や職種を超えるような人ならば価値も生まれますが、社員同士の飲み会が常態化しているようなら、過度な開催は考えものです。まして、交わされる会話の中身が愚痴ばかりなら、なおさら気をつけましょう。愚痴には前進性がないからです。そこへ若い社員を巻き込んでしまえば、彼らのモチベーションをそぐ可能性さえあります。

 これから大切にすべき観点は、飲み会が持つ機能や効能は認めておきながらも、開催する時間や方法に工夫をこらすことです。

 私がIBM時代に実施したのは「17時開始、19時解散」の飲み会です。時短勤務の方でも顔を出しやすく、終了も早いために翌日にも響きにくい。「仕事の一環」ともいえる時間帯のため、飲み会に抵抗感のある社員にも説明がしやすい良さもあります。

 ケーススタディのように、飲み会の代わりに「おやつ会」を開くのも手です。15時頃に、少し値の張るアイスクリームをテーブルに広げて会合するだけでも、特に女性からは歓迎する声をよく聞きましたし、業務中とも異なるコミュニケーションが確かに生まれました。

 飲み会によって、スキルの交換やコミュニケーション量に差が出ることは事実です。ただ、開催時間や方法を変えるだけでも、本来的な目的は果たせるはずです。

 余談ですが、私のはじめての著作『99%の人がしていないたった1%の仕事のコツ』に寄せられた感想で「昔なら飲み会で聞けるような話も多かった」というメッセージがありました。あの本から、そのような印象を受けたという事実は、これまで飲み会が果たしていたような機能を担うものがなくなってきている、という証拠かもしれません。

 組織力をアップすべく、もっと「飲み会のような会」を上手に開いていくことが、マネジメントや人材教育の観点からも必要だといえるのではないでしょうか。