東北楽天がクライマックスシリーズ(CS)進出を確定した。本拠地・仙台はお祭り騒ぎだったらしい。

 それはそうだろう。5年前に地元に誕生したプロ野球チームは見るのがつらくなるような弱さだった。

 オリックスと近鉄が合併し、パ・リーグが5球団になってしまうことから生まれた東北楽天は、合併球団(オリックス・バファローズ)から分配された選手によってチームが構成された。新生オリックスとしては計算できる戦力は出したくない。楽天には一部を除いて1軍半クラスの選手ばかりが集まった。

 これでは勝てるわけがない。田尾安志監督に率いられた1年目(2005年)は38勝97敗1分。首位福岡ソフトバンクにはなんと51.5ゲーム差、5位の北海道日本ハムにさえ25ゲーム差もつけられるダントツの最下位だった。

 野村克也監督が指揮をとるようになった2年目も、首位とは33ゲーム差の最下位。だが、3年目は首位と13.5ゲーム差の4位、4年目は11.5ゲーム差の5位と恥ずかしくない位置まで上昇し、今季はついに3位以内を確定。残り試合の成績次第ではCSの第1ステージ(3回戦制)を本拠地で戦える2位を狙えるところまできた。1年目の惨状を目の当たりにした地元ファンにすれば「5年でここまで来られるとは」と信じられない思いだろう。

負ける時は大差でもいい、
接戦は必ず勝つ「弱者の戦法」

 仙台のファンにこの驚きと喜びをもたらしたのが野村監督である。

 野村監督の手腕を表わすデータが得失点差だ。CS進出を確定した10月3日時点では、得点574、失点580で失点の方が6多い。楽天とは4ゲーム差の首位にいる北海道日本ハムの得失点差はなんと+140。楽天よりも下の3位・福岡ソフトバンクは+8だし、CS進出を逃した埼玉西武にしても+34と得点の方が多い。投打で圧倒できる戦力があれば当然、得点が失点を大きく上まわる(セ・リーグを制した巨人は同時点で+156)。

 だが、戦力が十分でない楽天はそれができない。だから、野村監督は試合展開によって戦い方を分けた。負ける時は大差負けでいい。そのかわり接戦に持ち込んだら、あらゆる手を使って勝利をものにする。そうした采配の積み重ねが得失点差のデータに表われている。弱者の戦い方を熟知しているのだ。