長嶋茂雄を「神様」扱いするメディアが知る由もない、本当に伝えるべき“ミスターの志”東京ドームに映し出された長嶋茂雄さんの追悼メッセージ。読売巨人軍の終身名誉監督だった Photo:JIJI

伝説の「ミスター」が死去
メディアの報道に覚えた違和感

 6月初旬、長嶋茂雄さんが亡くなり、メディアは回顧報道に明け暮れました。しかし、長嶋さんの現役時代を知らない現代の若者に「ミスター」を神様扱いをするかのような報道は、あまり感動を与えていなかったように思えます。

 毎日、米メジャーリーグで大谷翔平選手が本塁打王争いを演じている現在、日本のプロ野球で、しかも記録ではなく記憶に残った選手は、世代が違えば「過去の人」になりかねないことも、スポーツメディアは考えなければいけないと思います。

 私も長嶋世代です。アンチ巨人でしたが、長嶋さんの華麗な攻守には本当に魅了されました。長嶋さんが入団した当初は、まだプロ野球より六大学野球の方が人気があった時代です。また、巨人・阪神戦でたまに視聴率が30%を超えることがあっても、大相撲はNHK以外の民放も中継していたし、力道山のプロレスは50%以上という視聴率を叩き出していました。そんな中で、プロ野球を国民的スボーツにしたのが長嶋茂雄さんだったことは間違いありません。

 しかし、だからと言って、スポーツメディアがこの機に長嶋さんを礼賛するような報道ばかりしていては、長嶋さんが日本のプロ野球に残した教訓をじっくり検証することにはつながらないのではないかと思います。長嶋さんは単なる「野球の神様」ではなく、日本球界の独特な慣習の中で苦労しながら、プロ野球を盛り上げようと努力し続けた人でした。

 今回は、メディアがあえて光を当てない長嶋さんの真の姿と、この機に議論すべき日本のプロ野球の在り方について語りたいと思います。

 選手時代の長嶋さんは名実ともに特別な存在でしたが、監督としての長嶋さんは、正直「少し優秀な成績」の監督でしかありませんでした。戦績を振り返ると、リーグ優勝回数5回、日本シリーズ優勝回数2回、監督通算勝利数1034勝、監督通算敗北数889敗、勝率.538となっています。

 それに対して、森祇晶監督(西武ライオンズ)はリーグ優勝回数8回、日本シリーズ優勝回数6回。鶴岡一人監督(南海ホークス)は通算勝利数1773勝、リーグ優勝回数11回。そして、長嶋さんの監督であった巨人の川上哲治さんは、V9という不滅の記録と共に、勝率は鶴岡監督と同じく609。 長嶋さんの成績も決して悪くはありませんが、実はそれよりはるかにすごい成績を残している人は少なくないのです。