山口廣秀・日興リサーチセンター理事長、日本銀行元副総裁Photo by Kazutoshi Sumitomo

安倍晋三首相が辞任を表明した。約8年間に渡ったアベノミクスは日本経済に何をもたらしたのか。日本銀行元副総裁であり、日興リサーチセンター理事長である山口廣秀氏がアベノミクスのこれまでの成果について総括した。加えて、山口氏が現在の景況を“複合不況で全治3年”と診断する背景についても語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

成長率の平均は1%を切る
景気拡大を実感できず

――安倍晋三総理大臣が8月28日に辞任を表明しました。これまでのアベノミクスの成果をどう評価しますか。

 総理が体調を崩されて辞任を表明されたばかりの時に、総理の政策について評価めいたことを述べるのは非常に心苦しい。そう申し上げた上で、お答えすれば、2012年末から大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の3本の矢を掲げたアベノミクスが始まった。

 最初に円安が生じ、それから株高が進んだ。円安と株高で日本の企業マインドも大きく改善した。その限りにおいては非常にスタートダッシュのいい政策だった。コロナショック前までだが、少子高齢化という支援材料もあり雇用も改善が続いた。

 ただ、この8年近くの間の実質GDPの成長率は平均1%を切っている。その意味で回復過程は非常に緩やかだったといえる。企業経営者、消費者の感覚からすれば、景気回復、景気拡大を実感できるような状態ではなかった。

 雇用情勢が良好だった割には、賃金がそれほど増加せず、その結果として個人消費はほとんどゼロ成長だった。つまり、消費者の厚生は高まっていないということだ。

――第一の矢である大胆な金融政策についての評価は。

 13年4月から黒田東彦日本銀行総裁が異次元緩和を開始した。それまでの金融政策ではデフレを克服できなかったことを受けて、大規模な金融緩和に打って出た。国債やETF(上場投資信託)の購入額拡大、マイナス金利などの政策を重ねた結果、追加の政策手段がほぼなくなってしまった。

 2%の物価目標を達成することもできていない。これまでの政策はうまくいかなかったのではないか、ここまでの大胆な緩和を打ち続ける必要があったのだろうかと考えている。