世界を駆けてきた、漫画家で文筆家のヤマザキマリ氏。1年の半分を東京で、残りの半分を夫の実家であるイタリアで過ごしているが、コロナ禍で約10カ月、東京の自宅に閉じこもることを余儀なくされているそう。そのときの経験を基に綴ったのが、新著『たちどまって考える』(中公新書ラクレ)である。ヤマザキマリ氏が暮らすイタリアでは、中国人が多い北部地域から感染拡大が広がり、医療崩壊まで引き起こす事態になるも、少なくとも周囲のイタリア人は、中国への反感を何ら抱いていないという。その意外な理由とは、何だろうか。
人との距離が近いイタリアと
遠い日本の「異なる生活習慣」
イタリアやブラジル、そしてアメリカなど、新型コロナウイルスは世界中のあらゆる国の人々の間に容赦なく広がっていますが、その傾向を見ていると、日常における人との接触が濃厚なところほど感染が拡大しやすいのではないかということが、気になり出しました。
なぜ、感染が著しく拡大した国とそうでない国があるのか。たとえば、感染拡大が比較的抑えられ続けている日本と対比してみても、欧米では日本のように普段からマスクをする習慣がなく、「やれ抗菌だ、やれ除菌だ」といった衛生への神経質さもない、ということも要因の1つになっているのではないかと思うのです。そういったことを考え合わせてもなお、人と接触することの多い文化圏の人たちにとっては、つくづく相性の悪いウイルスだったと言えるでしょう。
たとえばイタリアの人たちは、恋人や夫婦に限らず、誰とでもくっつきたがる性質があるように思います。うちの義父母や義妹、隣人や友人も、私とは頻繁に抱擁を交わしますし、出会ったときと別れるときには必ず頬にキスもする。人間同士の接触に慣れていない人種には違和感を覚えるところでもあるのですが、彼らにとってはいちいち意識にとめていない、ごく当たり前の振る舞いなのです。
習慣化しているとしても、とにかくCovid-19は人間同士の接触や会話によってどんどん感染するウイルスなわけですから、人に近づかなければ感染はしないわけです。至極単純なことです。
日本ではまず夫婦間でも不必要にベタベタすることはないし、親子でも頻繁に抱き合ったり頬にキスをしたりしません。街角で知り合いにあって抱擁したりキスをしたりすることもなければ、握手ですらそんなに頻繁には交わしません。