アメリカを中心に、中国の武漢ウイルス研究所が新型コロナ発祥の地だと信じる人が増えている。WHOが否定コメントを出しても、この説は勢いを増すばかり。こういうときには、頭ごなしに信じ込んだり、逆に否定するのではなく、「なぜ、こんな説が出ているのか」という背景を考えてみるべきである。(ノンフィクションライター 窪田順生)

「人工ウイルス説」を
信じるアメリカの若者たち

中国の習近平国家主席
「コロナで中国は明らかに得をしている」ーーこの事実があるからこそ、「中国の人工ウイルス説」は人々に対して説得力を持っている Photo:Avalon/JIJI

 今月21日、世界保健機関(WHO)の報道官は、新型コロナウイルスについてこのような考えを示した。

「研究所などで人為的に操作や作成されたものではなく、動物が起源であることをあらゆる根拠が示している」

 この発言は、トランプ大統領が声高に主張し、米メディアも盛んに報じる「武漢ウイルス研究所の安全性に問題があって、そこから“0号患者”が出たのではないか」という疑惑の火消しを意識したものであることは明らかだ。

 アメリカの世論調査会社が今月行った調査では、23%の人がウィルスが「意図的に作られた」と回答。「偶然作られた」と答えた6%を合わせると、29%が「人工ウイルス説」を信じている。年齢別で見ると、18~29歳が35%と高くなっており、ネットやSNSで情報を入手している若い人たちの間で、この説が広まっていることがうかがえる。

 1500株以上のウイルスを保管する、このアジア最大規模の研究施設に疑惑の目を向けているのは、なにもアメリカ人だけではない。

 例えば、今月16日には、エイズウイルスの発見によって2008年にノーベル生理学賞・医学賞を受賞したフランスのリュック・モンタニエ氏も、「武漢ウイルス研究所起源説」に言及。コウモリ由来のコロナウイルスで、エイズワクチンの開発を進めていた中で、何らかのアクシデントで施設外に漏れてしまったという考えを示している。

 しかし、実際にこの説が本当なのか否か、確固とした証拠はいまだに、どこからも出されていない。WHOも参戦して、「いろんな人たちが、いろんなことを言っている」という混沌とした状況だ。そんな中、なぜ世界では「武漢ウイルス研究所起源説」を頭から信じる人たちが後を絶たないのか。

 インテリジェンス方面からは、アメリカの情報機関が仕掛けている「対中工作」の一環だなんて話もまことしやかに語られているが、一般庶民がなんとなくこの陰謀論に引っ張られてしまうのは、今回の世界的なコロナパニックが見方によっては、“中国にとって都合のいい方向”へ流れていることも大きいのではないか。