原因は、彼が育ってきた環境にもあるでしょう。喜怒哀楽を表出させる場面が極端に少なくなっているからです。私らの子どもの頃は、学校から帰宅したら外に出て遊んだり、行動範囲が広く、他人と接する機会も多かったものです。

 ところが、いまの時代は帰宅後は塾で忙しいし、家にいれば1人で過ごすツールも充実しているため、あまり外に出なくても楽しいことがいくらでもあります。1人で楽しめるので、家族とのコミュニケーションの絶対量も少ない。兄弟姉妹がいない子も多く、あまり喧嘩もしない。つまり、表情が豊かになるような体験、経験、失敗の絶対量が減ってきているのです。

 それなのに、職場が以前の価値観、経験則に基づいて、社員を枠にはめたりマネジメントしたりすれば、ミスマッチが起こるのは当然でしょう。先の「お客様の前では笑顔でいろ」はその典型です。我々の世代にとって当たり前のことでも、同じ文化を経ていない彼らには簡単にはできないのです(しなくていい、ということではありませんが)。

 似たケースに、定時で仕事が終わった若手が、まだ残っている上司や先輩に「何かやることありますか」と訊く慣例があります。20~30年前の職場なら当たり前の光景でした。意訳するなら「今日はこのまま帰ってよろしいですか」と許可を求めているわけです。

 上司や先輩より先に帰る場合には、必ずひと言かけろ、がビジネスマナーだと言われてきました。自分の担当分が終わっても、それ以上の仕事をしてこそ認められると教えられました。ビジネスとは、相手の期待に応えているだけではダメで、期待値を上回る成果を見せて初めて評価される。そんな教育を受けてきました。

 いまでは違います。若手は“声がけ”などなくサッサと帰っています。そうすると「なぜ若い社員は残業を嫌がるのか」と中高年世代は言いがちです。でも、この「なぜ」という疑問自体がおかしいと考える必要があるのです。

 この不安定な世の中では、会社に尽くしても必ずしも報われるわけではありません。だから、若い人が言われたことしかやらないのは、気が利かないわけでも、やる気に欠けるからでもない。指示された以上の仕事をしても、自分のためになるという意識を持てないのです。