発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター)。
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1年先まで見る映画を決めるワケ
僕の友人に、発達障害傾向が非常に強い会社経営者がいるのですが、彼は「1年先まで見る映画のスケジュールを決めている」と言います。というのも、会社経営という非常に強いストレスから逃れるためには現実逃避が必要で、それは意識的にスケジュールとしてやらなければついついおざなりになってしまう。そして、彼は「別に映画はそれほど好きではない」そうです。ストーリーに没頭していれば現実から離れて心を休められるし、かかる時間もちょうどいいとのこと。
要するに、「映画が画面に流れる自宅のリビングにいれば、自分は休息に入っている」というある種の自己暗示をかけているのでしょうね(まぁ、映画の話をすると止まらなくなるので「それほど好きではない」は事実ではないような気がしなくもないですが)。
ここまで極端な例ではなくとも、「こうしていれば自分は休息しているのだ」と思えるものを普段から用意しておくことは非常に重要です。それも、「今日は映画を見る気になれない」とか「サウナまで出向く気力もない」という状態は十分にあり得るので、自宅で出来るものを2つと家の外に最低1つの計3つを用意しておくべきだと僕は思います。「食事」は多くの人にとってとりあえず確実に得られる娯楽なので、別枠としましょう。
休息のための設備投資を惜しむな
僕は結構こういった「完全な休息」のための諸々をたくさん持っている方だと思います。家の外にはサウナ、シーシャ(水たばこ)バー、コーヒーのおいしい喫茶店、行きつけのマッサージ店、自宅のリビングには映画やアニメを見るためのソファとモニタがありますし(これを仕事場と分けるのは本当に重要です!)、読むのが脳の負担にならない純粋な休養としての本も大量に備蓄してあります。
こういった、良質な現実逃避をもたらしてくれるものものを生活の余剰物やぜいたく品と考えるのは完全に間違った考え方です。これは、あなたが良質な休息を得るために必ず必要な生活設備そのものなのです。
世の中の人は、「清貧」みたいなものが大好きです。例えば、生活が苦しいと主張する人の家にちょっと良質なオーディオ機器があったりするとすぐに怒り始めます。インターネットで見かけたことがある光景だな、と思う人もいらっしゃるでしょう。しかし、その設備で良質な休養が得られているのなら、もちろん度が過ぎるということはあり得るにせよ、それは間違いなくその人にとって必要な設備なのです。リラックスしていい音楽を聴いて明日への活力が生み出せるなら、それは本当に素晴らしいことです。
日々に疲れ切っていると、人間の自尊心は徐々に失われていきます。そして、自尊心が失われた結果として起きて来るのが、こういったあなた自身に良質な休息を与えてくれる設備の軽視でしょう。「俺なんかがこんな贅沢をしてはだめだ」というある種の自罰意識がどこからともなく生まれてきます。しかし、話は全く逆なのです。あなたの人生がうまくいっていないのであれば、あなたはまず良質な休息を確保しなければなりません。