文系のなかには、理系コンプレックスを抱えている人は少なくありません。しかし、「読書においては文系がまさっている」と、この本に出合うまではそう思っていました。しかし……。新刊『理系読書 読書効率を最大化する超合理的サイクル』は、理系が実践している合理的な方法を読書に応用した技術です。著者は、東大生500人以上、医大生を2000人以上輩出した元駿台予備学校ナンバーワン化学講師で、バリバリの理系。本をまるで理科の実験のように扱い、最短最速でスキルハントする。インプットとアウトプットが速すぎて、これにはもうお手上げです。「速く読むこと」や「大量に覚えること」を目的とする読書術とは、一線を画した内容。最短最速で著者の経験知やノウハウを自分の頭にインストールし、自分の問題解決に役立てる至極の読書術です。
問題意識は「なぜ?」から生まれる
理系読書をするうえで大切なのは、1冊の本の中から、自分にとって必要な情報のみを抽出して実践することです。
何が必要な情報かは、自分に問題意識がなければ明らかになりません。その問題意識を明確にする力が、「問題発見力」です。日常生活の中から問題を見つけ、自分ごととして捉える力です。
問題発見力がないと、問題意識も生まれないので、問題の改善や自己成長につながる読書ができないのです。
では、問題発見力をどう育て身につけていくか。「欠乏感」や「欠如の意識」が、その根源には必要です。これは、私の専門分野の1つである自然科学では一般的な考えです。自然科学は、「なぜ?」からスタートする学問だからです。
「なぜ、りんごは下に落ちるのか?」
「なぜ、太陽は東から昇って西に沈むのか?」
「なぜ、海水は塩っ辛いのか?」
「なぜ」を起点に理論の追求が始まり、その後の実験・研究の積み重ねで仮説が証明されていきます。問題を発見するときに重要な出発点は、「なぜ」から入ることです。ビジネスや日常においても同様です。
「なぜ、先輩と同じようにやっているのにうまくいかないのか?」
「先輩にあって自分にないものは何か?」
「その自分にないものを埋めるにはどうすればいいか?」
といったように、「なぜ?」「何を?」「どうして?」を追求していくことで問題が明確になっていきます。その過程で必ず「ない」ものがわかります。「ない」ものがわかると、そこを埋めたくなるのが人間の性(さが)です。この、欠けたものを補完したいと思う意欲こそが「問題意識」です。
日頃から「なぜ」を繰り返して問題発見力を高めることで、問題意識のアンテナを立てることができるのです。
「ない」ことで落ち込む必要はない
自分に「ない」ものが見つかったとき、どうしても気になってしまうのは他人との違いです。「あの人にはあるのに自分にはない」という考えが、劣等感につながり、必要以上に落ち込んでしまう人がいます。過去の私も、「ない」ことばかり考えて落ち込むコンプレックス人間でした。
ただ、他人の能力と比べて差があるからといって、劣等感を持つ必要はありません。部分的に足りていないことがあるだけで、それを全体に広げて考える必要はないのです。
一方で、劣等感を抱きたくないという理由で、他人との差に目をつぶるというのも、正しい対処法とはいえません。
世間では、自分は自分らしく、オンリーワンの自分であることが大事で、他人と自分を比較することには意味がないとする風潮があります。
その風潮については半分賛成で、半分反対です。
理系分野の学問の中では、基本的な実験方法として「対照実験」があります。1つの条件だけを変えた複数のサンプルを用いて実験を行い、その条件がそれぞれのサンプルの結果に与える影響を比較しながら検証する手法です。他人との比較も、この対照実験の考え方に当てはめればいいのです。
「あの人の優れている点は、声の明るさや大きさだ。では、声の明るさと大きさを彼に近づけてみたら、結果はどうなるか」
このように自分を1つのサンプル試料として捉え、条件を変えながら結果を検証するのです。この考え方は、自分のスキルアップにかなり有効です。
ここでのポイントは、「彼はどんなスキルを持っているのか」「彼女はなぜそのスキルを身につけられたのか」というように、他人のプラス部分のみにフォーカスして自身を比較することです。そうすることで、自分に足りないものを探ることができます。
かの有名なソクラテスは「無知の知」を唱えました。これは、自分が知らないことを自覚することは、自分に知恵があると思い込むよりも優れており、新たな学びを得て成長を促進させることができる、という考え方です。
「ない」ことに気づき向き合おうと思った時点で、成長の第一歩を踏み出したといえます。