コロナ禍がもたらしたアナログからデジタルへの転換、会社がどうにかして通常業務を維持していくために行ったものにすぎません。いわば、商品やサービスを供給する側のDX=単純なデジタル化です。実施した企業は「うまくいった」と満足するかもしれません。

 しかし、顧客や消費者はどうでしょうか。供給側である企業では、あちこちからDXという単語が聞こえてきますが、DXのメリットを享受するはずの市場からは「便利になった」「楽しくなった」といった声があまり聞こえてこないのが実態だと思うのです。むしろ、利用者に配慮しないデジタル化は不便さやトラブルを引き起こすことがあります。私は単純なデジタル化をDX1.0、利用者の利便性を考慮した便利で楽しいDXをDX2.0と呼んでいます。

単なるデジタル化で終わらないDX
「DX2.0」をどうやって実現するか?

 総務省は、4月20日に閣議決定された全国民に一律10万円を給付する「特別定額給付金」の申請方法として、「郵送申請方式」とマイナンバーカード所持者向けの「オンライン申請方式」の2種類を発表しました。

「オンライン申請方式」の採用は、政府が使いやすさや処理のしやすさ、手間やコストを削減するためのDX施策と思われました。しかし、このオンライン申請方式にはさまざまな問題がありました。

 オンライン申請方式ではマイナンバーカードのパスワードを更新しておく必要があったのですが、それをしていなかった人の多くは役所に長時間並んでパスワードの更新をしなければなりませんでした。また、申請はオンラインでできる一方、受け付けた役所のシステムがうまく連携しておらず、データを紙でプリントアウトして目視で確認する必要があるなど、受ける役所側の手間が郵送より多くかかる結果となりました。早期に制度を導入しなければならなかったので仕方ないのですが、利用者の利便性や処理の受付方法をきちんと検討しなければ、DXは機能しません。

 では、このようなことが今後起こらないようにするために、何が必要なのでしょうか?それは従来のように「ITの人だけ」が技術面からだけDXにアプローチするのではなく、市場の消費者に近く、市場を最も理解しているマーケティング部門の人やマーケターが積極的にDXに関わることです。マーケティング部門やマーケターは、顧客のデータにアクセスしやすく、市場や利用者がどんな課題を抱えており、どうすれば使いやすいかを分析できる立場にあるからです。

 ここで重要なのは「マーケティング視点」を持つことですので、マーケティング部門に所属しているか、職種がマーケターかといったことはあまり重要ではありません。消費者の心理が分かり、組織や人が抱える課題に共感でき、働き方や暮らし方について理想の未来像を思い描ける人は、全員がマーケティング視点を持っています。

 つまり、誰でも「DX2.0」の実現に貢献でき、当事者となって実行できる立場にあるのです。