リアル店舗,AI活用
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顧客の変化を把握し、対応し続けることは、コロナ禍のような大きな外圧の下でビジネスを持続・展開する際にも有効だ。AIなどデジタル技術を活用して顧客と向き合うことが、いかにして従業員や開発者のモチベーション向上につながり、製品・サービスの改良に結び付くのか。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、現在は複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏が、リアル店舗のAI活用例からひもとく。

リアル店舗の顧客行動は
AI活用で把握しやすくなっている

 前回は「九州発のスーパー・トライアルが「小売業のAI化」を実現できた理由」と題して、DX(デジタルトランスフォーメーション)実現に必要な人と組織のあり方、顧客との関係づくりについて、九州を中心にディスカウントスーパーを展開するトライアルグループ傘下のRetail AI代表取締役社長・永田洋幸氏に話を伺いました。そこで、顧客の変化を把握することの大切さについて解説しましたが、今回もデジタル技術を活用した顧客との向き合い方について、話を続けてみたいと思います。

 オンラインショップをはじめ、ウェブやアプリではユーザーの行動をデータとして取り込み、ページ遷移分析などにより把握した情報をもとに顧客体験を良くする取り組みが、既に広く行われるようになっています。一方、リアルな店舗で同じような分析を行うためには、これまでは「行動観察」などの手法を使って調査が実施されてきました。

 行動観察調査は、文化人類学の「エスノグラフィー」の手法を応用して、調査対象となる現場を観察して事実を収集し、仮説を導き出した上で、行動のもととなるニーズや課題を把握していくものです。書店でどこにどんな本を置くか、フロアレイアウトを検討するために行動観察を実施するという例で、どのような調査が行われるのかを見てみましょう。

 売り場において、顧客は入り口から入って、いろいろなコーナーや棚をまわって本や雑誌を手に取り、立ち読みしたり棚に戻したりして、次のコーナーへ移る場合もあれば、会計のためにレジに向かうことも、何も買わずに店を出ることもあり、さまざまな行動を取ります。

 この「どこに寄ってどういう行動をするか」について、いろいろと仮説は立てられるのですが、本当に仮説の通りになっているかどうかを検証するのはなかなか難しいことです。そこで、売り場に専門の行動観察員を配置して、顧客の行動をメモに取り、ありのままの行動を事実として収集していきます。情報が得られたところで仮説を導き出したら、今度はその仮説に従ってレイアウト変更を行い、また観察などにより成果を検証していくのが行動観察調査の段取りとなります。

 こうした手法は2000年代ごろから日本でもマーケティングに取り入れられてきました。しかし、オンラインでユーザー行動を把握する方法と比較すると、エスノグラフィーの手法が使える専門家が調査に必要なことや、ある程度の期間を要すること、結果の確認までにも時間がかかることなどから、なかなかスケールしませんでした。

 その状況が最近、AI、機械学習の力で変わってきています。トライアルの例ではAIカメラの導入により、顧客の売り場での動線が明らかにできるようになりました。ほかにも、AIスタートアップのABEJAのような企業が、リアル店舗の来店客の行動を可視化するソリューションを開発・提供するようになっています。