20世紀の代表的な指揮者の一人、オットー・クレンペラーの新しいCDが9月に2点発売され、多くのリスナーを驚かせた。近年はレアな音源が次々に登場して慣れているが、このクレンペラー盤は珍しい上にステレオ盤だ。しかも、このユダヤ系ドイツ人の大指揮者が録音したオーケストラは、アメリカのフィラデルフィア管弦楽団である。買わずにはおれない魅力的な組み合わせだ。(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)
4人の巨匠の活躍時期と録音技術の差
謹厳実直、剛毅直諒(ごうきちょくりょう)、苦い表情でにらみつける怖い巨人指揮者(身長2メートルの文字通り巨人)と、きらびやかでいかにもアメリカ的な明朗サウンドで知られるフィラデルフィア管弦楽団の組み合わせは面白い。1962年のライブ録音で、完全なステレオ2チャンネルで収録されている。
クレンペラーは1885年生まれで、ドイツのヴィルヘルム・フルトヴェングラーと同世代だ。イタリア出身のアルトゥーロ・トスカニーニより20歳、ドイツ出身のブルーノ・ワルターより10歳若い。フルトヴェングラーと同世代だから貧弱なモノラル録音しかないかというと、そんなことはない。この4人が他界した年を比べると分かる。
フルトヴェングラー(1886~1954)
トスカニーニ(1867~1957)
ワルター(1876~1962)
クレンペラー(1885~1973)
ステレオLP時代は、1950年代の終わりから始まる。他界した年によって巨匠たちの録音の優劣が決まってしまったところが悲しいのだが、4人の録音状況を比べてみる。なお、音響機器のイノベーションによる録音品質の向上、制作者の技術力向上はすさまじく、今日まで影響は続いている。