2020年12月にベートーヴェン生誕250周年を迎える。今年は世界中でベートーヴェンの作品を演奏するコンサートが無数に開催されるだろう。CDなどのソフトも、すでに続々と発売されている。特に9つの交響曲は世界中で人気があり、全集としてさまざまなセットが市場に出ている。SACDやブルーレイオーディオなど、ハイレゾ音源で古いアナログ録音をリニューアルしているケースも多く、新しい発見が可能になっている。(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)
世界中で不動の人気を
誇るベートーヴェン
ベートーヴェンの人気は不動で、世界中の音楽市場(ライブもレコードも)では、常に売り上げ上位にある。たとえば日本のプロ・オーケストラの年間演奏回数ランキング(日本オーケストラ連盟調べ)では、2018年度(18年4月~19年3月)の1位がモーツァルトで80回、2位ベートーヴェンは65回で、この2人が飛びぬけている。だいたい毎年、モーツァルトとベートーヴェンが1、2位を争っているそうだ。ヨーロッパでもアメリカでもアジアでも同じ傾向だという。
また、タワーレコードの2019年ベストセラー(クラシック輸入盤)ランキングによると、第4位にカラヤン指揮ベルリンフィル「ベートーヴェン交響曲全曲1966年東京ライヴ」、第5位にネルソンス指揮ウィーンフィル「ベートーヴェン交響曲全集」と、新旧の全集がベスト10に2点も入っている。
どうしてベートーヴェンは不動の人気を維持しているのだろうか。ベートーヴェンの交響曲は、けっしてリラックスできる音楽ではない。優れた建築のように精密で合理的で構造的な音楽だから、聞く側は極度の緊張を強いられる。とてもBGMにしてほかの作業ができるような音楽ではない。これが、ベートーヴェン以前のハイドンやモーツァルトなどとまったく違うところだ。
交響曲はハイドンがソナタ形式を彫琢して創造し、モーツァルトが楽器の能力を進化させて形式美にリリシズム(抒情性)を加えた。音楽の様式、楽器の組み合わせ方(オーケストレーション)など、非常に完成度の高い人類のレガシーだ。
ハイドンの没年は1809年、モーツァルトは1791年で、ベートーヴェンの生年は1770年だから、前半生は2人の先達と重なる。ベートーヴェンはウィーンでハイドンのレッスンを受け、モーツァルトにも会っている。しかしベートーヴェンはハイドンやモーツァルトを超えて、交響曲を音楽芸術の最高峰へ引き上げた。その代わり、人々がリラックスできる音楽ではなくなった。