辞めた私のことをザッポスのみんなが思ってくれている!
新しい仕事を始めて半年ほど経った頃、ニューヨークの市場でザッポス時代の同僚のアイリーンとばったり会いました。新しい会社はどんな感じかと聞かれて、私は「うーん……同じではないね」と答えました。私は自分が幸せではないと気づいていました。
転職して半年からは、オフィスの外でも一緒に過ごしたいと思う人はいませんでした。ザッポスが勤務終了後のハッピーアワーのために1週間に投資する金額は、この会社が年1回の社員旅行に使う金額と同じくらいでした。そういう職場で誰かと絆を深めようとする人は、まずいないでしょう。
さらに、CEOはとても高価で派手な車に乗っていました。スーパーカーのような車でした。それだけで私は神経を逆なでされました。ザッポスには手本となる人がいます。トニーはマツダかアキュラの中古車に乗って、Tシャツで出勤していました(この原稿を書いている時点で、トニーは車を持っていません。ダウンタウンへの移転を祝うイベントで、くじの景品に出し、当選した社員にプレゼントしたのです。その後、オフィスから1キロほど離れた所にあるエアストリーム・パークに引っ越して、歩いて通勤できるようになりました)。何もかも、あまりに違いました。結局その会社は辞めましたが、次の会社も同じでした。
ザッポスを辞めてから1年半後に、私はバイクでひどい交通事故にあいました。携帯電話を手にした、ながら運転の人がいたんです(運転中のメールは絶対にやめましょう)。私は大ケガをしました。
3週間後にようやく、身の回りのことができるようになりました。退院して自宅療養になり、1日後か2日後に、自宅の前にUPSのトラックが止まりました。玄関のベルが鳴って、男性の配達員がザッポスの巨大な箱を抱えていました。私は会社を辞めてから何も注文していませんでした。罪悪感もあったのでしょう。だから、その箱に何が入っているのか、見当もつきませんでした。
箱を開けて、目を疑いました。信じられませんでした。今も思い出すだけで涙があふれてきます。1年半以上も前に辞めた私のために、同じフロアで働いていた全員が集まって、私の好きなものを詰めてくれたのです。私の好きなお酒など、私のためだけに考えてくれたものばかりでした。みんなが私のことを思ってくれていると、伝わってきました。
公平のために言うと、そのとき働いていた会社からもお見舞いが届きました。ソーセージやチーズ、おかしなどのグルメの詰め合わせです。嫌いな人はいないですよね? でも、そこに人間的な温かみはありませんでした。
その会社には、個人的な行為というものが、いっさいありませんでした。でも、かつてザッポスで一緒に働いた人たちは、私が辞めてからずいぶん経っていたにもかかわらず、思いやりのこもった個人的なことをしてくれました。私にとって、とても大きなことでした。転機になりました。友人も家族も、自分の幸せもラスベガスに置いてきて、私はここで何をしているのだろう?そう思わずにいられませんでした。
そして、私は戻ってきました。ありがたいことに、彼らは私を連れ戻してくれたのです。手を広げて私を迎え入れてくれました。二度とここを離れるつもりはありません。ここは、人としてふさわしい扱いをしてくれる場所です。すべての人に対して。当たり前のことを当たり前に。それは2倍の給料より大切なことです。間違いありません。