ザッポスという会社をご存じだろうか。日本には進出していないアメリカのオンライン靴店なのだが、数々の伝説級のサービスとユニークなエピソードで全米、そして日本を含む世界中にファンがいるというかなり変わった会社だ。そしてこのザッポス、サービスも変わっているが、もっと変わっているのがそのマネジメント。ザッポスは世界最大規模のホラクラシー組織である。この10年のザッポスの伝説とマネジメントを自ら全公開したのが注目の『ザッポス伝説2.0 ハピネス・ドリブン・カンパニー』(トニー・シェイ+ザッポス・ファミリー+マーク・ダゴスティーノ著 本荘修二監訳 矢羽野薫訳)である。本稿では、特別に本書から一部公開する。

ザッポスボックス

ある日、上司に言いました。
「会社を辞めます」

by レジーナ・レンダ スワッグ・エンジニア(輪になって踊っていたら、投げ縄を掛けられたことがある!)

 まず、私がここで働くようになった経緯をお話ししましょう。『ザッポス伝説』を読んだ私は、当時の上司に言いました。

「会社を辞めます」

 ロングアイランドの家族経営の薬局で働いていたのですが、上司は困惑した顔で私を見ました。「これからどうするの?」

「すごい本を読んだんです。このザッポスという会社はベガスにあって、向こうには高校時代の友人が何人かいます。この会社の人はみんな、とても楽しそうなんです。私もここで働くつもりです」

「悪い冗談、だろう? きみはこれまでで最高の従業員なのに! 頭がおかしくなったのか?」

 彼は、本気で私がどうかしてしまったと思っていました。給料を上げるとも言われたけれど、私は断りました。そしてザッポスに応募して、1ヵ月後に採用が決まりました。

 車のリアウインドウに「ザッポスか、さもなくば破滅だ!」と書いて、西に向かいました。道中ではずっと、ほかの車が挨拶のクラクションを鳴らし、私に向かって笑顔で親指を立てていました。

 それが2012年のことです。ダウンタウンに移転する直前、自己組織化に移行する直前に入社しました。数年間カスタマー・ロイヤルティ・チームで働いた後、スティービーのチームに移って、従業員エンゲージメントやイベント、慈善活動などを担当しています。

 最初は、販促品の購入と、(社員の活躍を称える)リワード&リコグニション・プログラムのチームを取りまとめていました。要するに、ペンやストラップ、ドリンク缶のカバー、Tシャツ、マグカップなど、イベントで配ったり、社員がクライアントやベンダーに贈るために社内で買ったりする、さまざまなスワッグ(プロモーション用のお土産や記念品)を購入していました。

 そしてある日、ひらめいたのです。「販促品を購入するなら、メーカーから直接仕入れて中間業者を省けば、会社の経費を大幅に減らせるに違いない」

 私たちはこういう会社だし、自己組織化を進めている最中だったので、誰にも相談はしませんでした。とにかくやってみたのです。

 最初は表彰メダルでした。ロードレース用の特注のデザインや、キャンパスで子ども向けに開催するイベントで使うものです。当時は1枚20ドルほどでしたが、私はありえない値段だと思っていました。そこで、もっと良い条件で取引ができる人を見つけました。

 次にはTシャツがずいぶん高いと思い、それまでの半額以下で作るという地元の人を見つけました。これでメダルとTシャツのベストな取引先がそろいました。社内でTシャツやメダルの注文を頼まれると、私は「バッチリの人がいるわよ!」と応じました。

 続いて、ほかの製品を購入していたメーカーにも電話をかけました。「こんにちは、私はスワッグ・ソースという販促品の会社を経営しています」と適当な社名を名乗り、「おたくの製品の購入を検討しています」と言うと、彼らは喜んで卸値を提示しました。それまで何年も大手の流通会社に払っていた金額より、ずっと安かったんです。

 私はさらに続けました。ザッポスの社員が使うさまざまな販促品をこの方法で仕入れて、社外で購入するよりはるかに安く販売しました。