ここで明確にしておかなければならない。自分のなかにある真の潜在能力を発揮させまいとする恐怖がない人間は、この地球にはひとりもいない。もう一度いうが、人間であることは不完全さのひとつであり、その不完全さの多くは、わたしたちの本質である完全無欠をはなれ、世の中を旅しているときに身につけてしまう恐怖に起因しているんだ」
「ということは、最近、多くの人びとが“実績を忘れて”“現在に集中する”といっているのは、恐怖のあらわれなんですか?」
「そうともいえないな、ダール。理論上、その哲学は正しいんだが、彼らの実行方法がまちがっているんだ。きみに教えた警句を忘れないように。最善をつくし、あとは人生にまかせる。夢を追いかけるんだ。望んでいる人生を確立するために、できることはすべてやる。きみを怖がらせる場所をおとずれるんだ、心ではわかっている、自分はこの世に生まれるべくして生まれたというすばらしさからあとずさってはならない。
で、人間として、願いを実現するためにできるかぎりのことをしたら――そのときはじめて――実績を忘れるんだ。すべてをあたえることで自分の本分をつくしたあとは、肩の力を抜き、なにが起きても受け入れる。きみはできるかぎりのことをした。責任あるふるまいをして、能力のおよぶ範囲で最高の行動と選択をした。いまはより大きな力に身をまかせ、行くことになっている場所に運んでもらうんだ。人生がきみを運命の道につれていってくれるにまかせる。その時点で、肩の力を抜いて身をゆだねる必要がある」
「わかりかけてきました。これもバランスの問題ですね。自分の役割をはたし、あとはすべてを支配しているより高次の力、人生か自然か英知か神の手にゆだねる。そして、なにがやってきても、理由があってきたことを理解すべきである」