由紀は、安曇が描いたバランスシートと現金製造機の絵を見比べながら、工場の現場を思い浮かべた。機械好きだった源蔵は、新しいミシンが出るとすぐに購入した。しかし、その多くは使われずに倉庫に放置されたままだ。ミシンだけではない。北海道と富山にある工場のうち、北海道工場のラインは止まっていることが多い。社宅や保養施設の会員権も数カ所持っているが、これも現金を生んではいない。
(そうか……)
その時、由紀はリストラの意味を理解した。
「リストラって、現金を生まない資産を処分することですね?」
「良い答えだ。固定資産の中には、それ自体の維持に必要な現金すら作り出せないものがある。こうした固定資産は保有しているだけで現金を浪費するから、真っ先に処分して現金に換えるべきだ」
由紀は大きく頷いた。
「次に、現金製造機の内側(つまり現金になる前の資産)に注目してみよう。通常、この中の資産は留まることなく流れている。しかし長期間滞留している在庫や売掛金も混じっている。これらはいつまで経っても現金にならないから、強制的に処分する。つまり、最初の姿である現金に戻すのだ」
安曇は、シャトー・アンジェラスの入ったワイングラスを右手に持ったまま説明を続けた。
「稼働していない工場の建物や機械、倉庫にうず高く積まれたまま動かない生地やジッパーなどの付属部品、あるいは売れ残りの製品などを処分して現金に換える。滞留している売掛金を回収する。こうして手にした現金を銀行借入金の返済に充てるのだ。換言すれば、現金を生まない資産を処分して、元の姿である現金に戻すことがリストラの第一歩なのだ」
由紀はリストラの意味がやっとつかめた。
「スリムになったハンナを想像したまえ。今とは全く別の姿がイメージできるはずだ」
由紀は安曇の言葉をしっかりとノートに書きとめた。
(次回は10月17日更新予定です)
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