初めに現金ありき

 安曇は、描いた絵を太い万年筆でなぞりながら説明を続けた。

「簡単に言えば、会社の活動は、現金を使って現金を作ることだ。つまり、手持ちの現金を現金製造機(※13)に投入する。現金は機械の中のいくつかのプロセスを通過(材料→仕掛品→製品→売掛金)して再び現金になり、外に吐き出される(売掛金→現金)」

 安曇は、現金製造機の脇に、略式のバランスシートを書き加えた。

「固定資産は現金製造機のことだ。在庫や売掛金などの流動資産は、投入した現金が新たな現金に変換される前の状態だ」

 バランスシートの左側は、現金と現金製造機そのもの(固定資産)と、現金製造機の内側(流動資産)が描かれているのである。

「現金製造機を動かすにも現金が必要だ。従業員給与、電気代、修理代、工具代金などだ。注意すべきは、現金製造機が大きいほど、その性能が悪いほど、多くの維持費用がかかるということだ」

 ここで安曇は由紀に質問した。

「ハンナはなぜ儲からないのかな?」

「現金製造機に問題があるからですか……?」

 由紀は自信なさげに答えた。

「その通り。現金製造機がうまく動いていないからだ」

(※13)現金製造機……現金は、材料→仕掛品→製品→売掛金と形を変えて再び現金となります。この流れを営業循環過程といい、現金製造機の内側で行われます。