20万部のベストセラー『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』のシリーズ最新作『50円のコスト削減と100円の値上げでは、どちらが儲かるか?』(共に林總著)がいよいよ10月5日に発売されます。その刊行を記念して『餃子屋と高級フレンチでは~』の第3章までを特別公開。第2回は「第1章 会計はだまし絵、隠し絵だ」の前半をご紹介致します。

【前回までのあらすじ】
父の遺言により倒産寸前の中堅服飾メーカー「ハンナ」の社長に就任した由紀。ところが、メインバンクからは一切の資金協力を拒否され、1年経っても経営が改善しなければ融資を引きあげると言われる。由紀は、会計のプロ安曇のもとを訪れ、コンサルティングを依頼する。

築地の会席料理屋

 築地にある料亭の個室で、由紀は安曇の到着を待っていた。

 先週、思い切って安曇にコンサルを依頼してから、由紀はかすかな希望がわいてきたような気がした。相談相手がいることで、こんなにも精神が安らぐとは思ってもいなかった。

 それにしても今日の会議はひどかった。役員たちは、由紀をお飾りの社長だと思っているのは明らかだった。彼らは好き勝手に言いたいことを口にした。

製品(※3)在庫が増えたのは、工場をむやみに作りすぎたのが原因ではないか?」

 ハンナの大番頭で取締役経理部長(※4)の斉藤が、若い林田製造部長に詰め寄った。

 林田は「指示された数しか作っていないし、売れないのはデザインが悪いからです」と、製品企画部長の千田を責めた。

 千田は「君の部門で作る製品の品質が悪いから売れないのだ」と、逆に林田を批判した。

 由紀には、彼らの会話がさっぱり理解できなかった。議論が出尽くした頃、斉藤が由紀に慇懃に言った。

「私たちに的確な指示を出すのが社長の仕事です。ご判断をお願いします」

 明らかに嫌がらせだ、と由紀は思った。

 しかし、どうすることもできない。じっと我慢するしかなかった。

(※3)製品……会社が作って販売するものを製品、購入して販売するものを商品と言います。

(※4)経理部……経理部には、会計帳簿を作成して決算を行う機能(主計)、資金を調達運用する機能(財務)、そして、売上が少ないとか、原価が高すぎるとか、在庫が多いとか、設備投資をすべきかどうかといった情報を、経営トップに提供する機能(管理)があります。