社員が会社全体の成功に専念するよう、シモンズは報酬を活用した。社員には6ヵ月ごとにボーナスが支給されたが、それはメダリオンの収益が一定レベルを上回ったときに限られていた。
何年ものあいだ報酬が支払われたことで、優秀な人材も逃げ出すことはなかった。新たなシグナルを発見したのか、データをクリーニングしたのか、あるいはもっと目立たない業務をおこなったのかは、問題ではなかった。何かしら優れた業績を上げてメダリオンが好調であれば、ルネサンスの収益に基づいて明快な公式で計算されるボーナスポイントが与えられた。
ルネサンスのインフラの最高責任者だったグレン・ホイットニーは、次のように言う。
「年の初めに自分の公式を知らされる。式は全員同じで、いくつか係数が地位に応じて違うだけだ。もっとボーナスが欲しいって? それなら、自分にできる方法でファンドの収益を増やす。予測の鍵を見つけたり、バグを直したり、コードを高速にしたり、廊下の反対端の女性にコーヒーを持っていってすごいアイデアを教えたり、何でもいい……。ボスが君のネクタイを気に入ったかどうかじゃなくて、ファンドがどれだけの成績を上げたかでボーナスは決まるんだ」