ウォール街で桁外れの利益を出し続ける謎のヘッジファンド「ルネサンス・テクノロジーズ」。創始者のジム・シモンズは、40歳で数学者からトレーダーに転身した。なぜ、素人集団のルネサンスが市場で勝ち続けてきたのか。人間の感情を一切排除したアルゴリズム投資の裏で繰り広げられる、科学者たちの喜怒哀楽のドラマを描いた『最も賢い億万長者者 上巻下巻』(グレゴリー・ザッカーマン著、水谷淳訳)の日本版が刊行された。これを記念して、内容の一部を公開しよう。

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ライバルとは違う
限りなくオープンな組織を作る

 シモンズは、毎週の会合を率いたり、社員たちとおしゃべりをしたり、ストーニーブルックのハイテク企業支援施設にある狭苦しいオフィスで、同僚のラウファーやブラウンやマーサーと話し合ったりする折には、IDA(国防分析研究所)で暗号解読に携わっていた頃や、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校で優秀な数学者たちと研究していた頃に編み出して長年守ってきたいくつかの原則を、ことあるごとに強調した。いまやそれらの原則をルネサンスに丸ごと当てはめていたのだ。

 一つの重要な原則が、次のようなものだった。科学者や数学者が申し分のない結果を生み出すには、人と交流して議論し、自分の考えを知ってもらう必要がある。分かりきった教訓に聞こえるかもしれないが、ある意味では過激だった。

 ルネサンスの優秀な社員の多くも以前は、他人とチームを組むのでなく個人の研究に没頭することで成果を上げ、評価を得ていた。それどころか、才能のあるクオンツというのは、他人と一緒に働くのをもっとも嫌がる人種かもしれない(業界にはこういう有名なジョークがある。「社交的な数学者は、会話するときに自分の靴でなくて相手の靴を見つめるものだ」)。