まあ、こういった問題は「よその業界の昔からずっとある慣習だから」という理由で、放っておくべき悪習なのかもしれません。出版社の立場では「作品を育ててきたのは私たちだ」という自負もあるでしょう。ただ、クールジャパンを牽引すべき漫画業界から見て、本当にこのままでよいのかということは、ここで一度関係者一同が立ち止まって、考えるべき問題なのではないかと思います。

 アメリカを引き合いに出すと、発明についても創作についても最初の権利者を手厚く保護する仕組みができ上がり、結果としてベンチャー精神に富んだアイデアがたくさん生まれ、国も産業も発展を遂げるようになりました。

 アメリカ映画の常識では、人気の原作の映画化にあたっては、グロスパーティシペーションと言ってたとえば「興行収入の5%」といった具合に、それなりの原作料が支払われます。ハリウッドの産業規模から考えれば、数十億円単位にのぼるわけです。イギリス人ではありますが、『ハリー・ポッター』シリーズのJ・K・ローリング女史などは、書籍の印税とは別に映画化自体で相応の財産を築き、その総資産は1000億円を超えています。

「いや、そんなことはない。映画がヒットすればコミックスが売れるのだから、日本の漫画の作者にだって還元されるじゃないか」というのは正論かもしれませんが、それは事の本質ではなく、結果として起きることです。

『鬼滅』社会現象化を機に
見直すべき漫画業界の暗黒体質

 日本の漫画業界は、長らく「暗黒産業」と呼ばれてきました。映画化やドラマ化はよいことばかりではなく、実際には「原作レイプ」と呼ばれるような不幸な作品も混在し、原作者をないがしろにする慣習も多い世界です。『鬼滅の刃』がたまたま真摯な制作陣に恵まれていたからといって、業界慣習はこのままでいいという話ではないというのが、私の問題提起です。

 あるべき姿としては、これだけ映画がヒットすれば関係者の中でもその世界を創作した原作者が一番潤い、結果として三鷹に作品を並べた美術館を建てられるくらいのお金が支払われるべき世の中になるべきではないでしょうか。かつてドラマ『下町ロケット』(TBS系)を観ながら、大企業が平気で弱者を蹂躙する様子をハラハラして視聴していた立場としては、そんなことが実は結構気になったりするのです。とはいえ外野からの意見ですし、鬼滅ファンの皆様には「野暮ですみません」と謝っておきます。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)