アニメ映画「鬼滅の刃」の大ヒットが続いている。原作は週刊少年ジャンプの連載漫画で、鬼に家族を殺され、妹を鬼にされた主人公が、妹を救うために戦う物語だ。だが少年漫画と侮ることなかれ。そこには、理想の上司として学ぶべきことがいくつも描かれている。(作家・社会学者 鈴木涼美)
少年漫画の鬼滅の刃が
女性にも支持される理由
今年連載が終了したにもかかわらず、映画の公開によって再び大きな旋風を巻き起こしている漫画「鬼滅の刃」は、ジャンプの主要読者である少年たちのみならず、20代、30代の女性からも熱烈な支持を受けている。女性誌で特集が組まれ、コンビニは「鬼滅」のキャラクターたちで溢(あふ)れ、女性たちはそれぞれ「推し」のキャラクターについて熱く語る。
構造としては悪と戦うヒーローという少年漫画の一つの伝統を踏襲しているにもかかわらず、なぜこれほど女性たちも含めた大勢のファンを虜(とりこ)にするのかを考えることは、実に多くの気づきをもたらす。さらに、大きな組織で鬼と戦うこの漫画は、多様な形で理想のリーダー像、上司像を示すため、大人の男性にとっても学びのある作品であることは言うまでもない。
女性に人気の少年漫画は多くの場合、その魅力的なキャラクターが人気の秘訣だったりするが、それは本作でも全くそうだ。特に「鬼滅」のキャラクターは、「全員悪人」ならぬ「全員善人」とも言うべき、それぞれが慈愛に満ちた自己犠牲的な「善き人」であることはよく指摘される。また、それらのキャラクターがそれぞれに持つ過去が悲しみと残酷さに満ちていることも魅力の一つといわれる。
正確に言うと、物語は強大な力を持ち人を食う鬼と、それを退治する鬼殺隊を描くので、「善き人」であるキャラクターはその鬼殺隊の面々に限られる。ただし、鬼ももともとは不幸な過去を持つ人間であるため、悪役の側にも同情と共感の余地があることが、心地の良い性善説となって多くの世代から支持を得ている。