会社に入ったら、先輩が手取り足取り仕事を教えてくれる、なんて思わない方がいいのかも知れない。

「そんな余裕ある会社ばかりじゃないですから」と、ユミさんは言う。

「研修は?」

「そんなの、ないです」

「じゃあ、どうやって仕事をおぼえたの?」

「あっちで怒られ、こっちで怒鳴られ、やるせない気持ち満載。まさに、ヤケドしまくりで」

 職業は編集者である。

卒業間際の3月に見つけた出版社に入社
そこにはムチャクチャなワンマン社長がいた!

 大学時代は映画評論を勉強していたが、評論で食べていけるとは思っていなかった。だから、就職活動では新聞社や出版社を受けた。

「だけど、大手は全部落ちちゃいまして」

 卒業を間近に控えた1月になっても、内定はもらえず。「はて、どうしようか」と思っていたら、新聞の求人広告にこんな文言を見つけた。

「映画関連の本を出している出版社です」

 すでに卒業の3月を迎えていた。ダメ元で応募すると、とんとん拍子に採用が決まった。同期よりも少し遅い、5月に入社した。

「で、どうでした、その会社?」

「すごい会社でした」

「どうすごかったんでしょうか?」

「もう、ムチャクチャだったんですよ」

 これは後で知ったことだが、その会社、社長が恐ろしいほどワンマンで有名だった。ちょっとでも気に入らないことがあると、社長は社員を激しく罵倒し、クビにしてしまう。そんなこんなで人材が居つかないため、頻繁に求人広告も出していた。

「だけど、そんなの知る訳ないじゃないですか」

「学生だものね」

「そうなんですよ。だから、入った後でみんなに言われました。ふつうは、まず、受けないでしょって」