8月29日、空調総合メーカーのダイキン工業は、日本の製造業では今年最大となる大型買収に打って出た。2004年頃から水面下で進行していた米グッドマン社のM&Aは、数年越しで決着した。北米という世界の主戦場に躍り出ることで、本当の意味で“世界一の空調総合メーカー”となるが、そこに至るまでは数々の葛藤があった。1994年の社長就任以来、18年間、経営トップであり続ける井上会長に、グッドマン社買収の真相、「空調グローバル・ナンバーワン」の舞台裏、77歳になってもエネルギッシュに世界中を飛び回れる秘密、急進的なグローバル化に込められた経営者としての意思まで、硬軟織り交ぜて聞いた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)
――ようやく、この8月29日に買収話がまとまったグッドマン・グローバル社との今後について、井上会長は「両社は相互補完の関係にある」という点を強調している。相互補完とは、具体的にどのような部分を指しているのか。
端的に言えば、ダイキン工業には、北米でシェア1位の住宅向けエアコン・メーカーのグッドマン社を買収することで、これまで持っていなかった米国で主流の「ダクト式」(室内を丸ごと一気に冷やす)の機器と技術が加わる。
北米は、“空調発祥の地”であり、この世界で影響力のある“最大の市場”であるので、当社のプレゼンスが高められる。同時に、全米最大の販売ネットワーク(傘下に6万店のディーラーを抱える)と販売管理システム(日次処理)のノウハウが学べる。たとえば、彼らのITを駆使した顧客データベースは、部品の調達・製品の開発・機器の製造・物流を、一気通貫でコントロールしている。また、新製品を1つ加えると既存製品を1つ減らすなど、徹底してムダを排除したローコスト経営で、スピード生産とコスト競争力に優位性がある。
一方で、グッドマン社は、2008年に投資ファンドのヘルマン&フリードマン社に買収されてから、思うように動けずに悩んでいた。これは私の推測だが、短期的な利益を追い求めるファンドの意向によって、グッドマン社は海外展開させてもらえなかった。加えて、技術開発に費用をかけられず、徹底的な効率経営を求められてもいた。それでも、彼らは成長の機会を模索していた。