ダイキン工業は、一気呵成に北米市場でのプレゼンスを高めることを狙った

 押してダメなら引いてみよ、を地で行くような話である。

 8月29日、空調総合メーカーのダイキン工業は、米国の住宅向けエアコン大手のグッドマン・グローバル社を総額37億ドル(約2960億円)で買収すると発表した。

 ダイキン工業にとって、「北米」は恋い焦がれ続けた“空調発祥の地”であり、規格の決定などで力を持つ“最大の市場”でもある。ダイキン工業は、1980年代前半と、90年代後半に北米進出を果たすも、数年で撤退した。それでも、2006年にはマレーシアの有力メーカーを買収したことで、傘下の米マッケイ社を手に入れた。これで実質世界2位となり、3度目の北米進出を実現できた。

 だが当時、ダイキン工業が技術や性能に自信を持っていた「日本のダクトレス式」(室内を分散して冷やす)の輸出・概念の定着化は、「米国のダクト式」(室内を丸ごと一気に冷やす)を前に苦戦を続けた。ダイキン工業は、その後もM&Aを続け、11年に「グローバルNo.1」を宣言したが、実際は北米でのプレゼンスが低かった。

 そこで今回、ダクト式の住宅向けエアコンで最大のシェアを有し、全米に強力な販売網を持つグッドマン社を買収したのである。

 時間はかかるだろうが、いずれ米国でも環境意識の高まりから、日本流のダクトレス式も注目されるようになる──。

 その前に、米国流のダクト式で北米市場に本格参入し、冷熱供給の技術を含む、競合他社にない品揃えで優位に立ち、そこを起点に中南米や中近東に出ていく──。

 あえて一歩引き、確実に“実”を取るやり方は、海外展開を模索する日本企業にとって参考になるかもしれない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

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