苦労の末の新銘柄は米にこだわる
少量仕込みの槽搾り
栃木県小山市の若駒酒造の屋号は「太○」と書いて「かねたまる」と読む。意味はもちろん「金たまる」だ。
創業は1860年、祖先は商売上手といわれる近江商人だが、6代目の柏瀬幸裕さんが蔵へ戻った2009年は、金がたまるどころか、出ていく一方。「親孝行のつもりで、3年間だけ酒を造ろうと帰ってきました」。当時の生産量はたったの100石。そのうち7割は儲からない普通酒だった。
酒造りを習得するために、父の東京農業大学での同期生の蔵、奈良県の油長酒造へ修業に行く。3年間働き、給料は実家に送り、生原酒の技術を学んだ。「そして戻って最初に造った酒がラッキーパンチな高評価! でも続かずに4年目から大改革です」と幸裕さん。
柏瀬家は昔、2km先にある駅までの地所を所有する地主だった。瓦屋根が続く大きな蔵の一部は国の有形文化財だ。だが東日本大震災で壁が崩れ、さらに豪雨被害に遭って、蔵の中央の屋根が落ちた。今は残った蔵で酒造りを続ける。
幸裕さんの酒造りの特徴は少量仕込みで、メインの酒の米はあえて磨かず、山田錦は使わない。「誰も使っていない米はないですか?」が口癖だ。
昨年の大嘗祭で選ばれた栃木の米、とちぎの星も初年度から採用し、今も木桶仕込みの酒に使う。独自のジューシー感がある酒は、居酒屋主催の鑑評会で最優秀賞を連続受賞し、ファンも多い。
苦労続きの酒造りだが、自ら立ち上げた銘柄「若駒」は、今250石まで増え、「金たまる」のも時間の問題!?
●若駒酒造・栃木県小山市大字小薬169●代表銘柄:若駒 愛山90 しずく搾り、若駒 雄町90 無加圧採り、若駒 五百万石80 無加圧採り●杜氏:柏瀬幸裕●主要な米の品種:愛山、雄町、五百万石、夢ささら