発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター)。

発達障害の僕が発見した「睡眠より仕事を優先してしまう人」が見逃す超重要な事実

ベッドがないと人はマジで死ぬ

 お金がない。今月の家賃も不安だ─僕も長年そういう時期を生きてきました。お金がないと、いわゆる高級品というのはなんとなく腹立たしいものに見えます。ブランド品が視界に入ると腹が立ってきます。自分は安いアイテムでいい生活も仕事もするんだ、そういったアイデンティティはかつての僕にもありました。

 その結果として、働きすぎた僕は肩、腰、ひざ、手首に至るまでの全身をまんべんなく壊し、その治療費には軽々数十万円が必要になりました。動けなかった日の機会損失まで考えると、本当に想像したくもない額の損をしていると思います。

 病院、接骨院、マッサージ、ボルタレン、ロキソニン、貼り薬、コルセット……あらゆる対症療法の末に僕がたどり着いたのは「いい布団で寝ると健康になる」というとてもシンプルな結論でした。

 無人島など本物のサバイバルでも、最も重要であり、最初にすべきなのが「寝床の確保」です。水とか食料と同じくらいの切実さで、ベッドがないと人はマジで死にます。僕も昔ハードコアなボーイスカウトみたいなものに所属していたことがあって、そのときにこれを思い知りました。

 アスファルトに直接寝た経験がある人は多くないと思いますが、僕はあります。一晩くらい大丈夫だろうと横になっていたら、目を覚ましたときあまりにも全身がひどいことになっていると気づきました。硬く冷たい地面の上で寝るというのは、人類にとって自殺行為なのです。硬くボコボコした地面は人間の身体を容赦なく痛めつけますし、同時に地面から伝わってくる寒さは身体を致命的なところまで冷やします。

 実は、我々から見てサバイバルと感じられるような生活をしていた古代人は、ベッドにとても凝っていたという研究があります。毛皮だったりあるいは植物の繊維だったり、身体をやわらかくホールドし温かく保つ寝床の必要性を古代人ですら知っていたのです。

 翻ってみなさま、どんな布団で眠っておられるでしょうか。その長年しきっぱなしのペラペラの煎餅布団、もしかすると古代人のベッドより寝心地が悪くありませんか? 十分にあなたの身体を支え、同時に適切な保温をしてくれていますか?

 あらゆるものは、壊れる前にケアしたほうが安上がりです。あなたの身体も例外ではありません。どれほどお金がなくてもまずは寝床にお金をかけるというのは、サバイバルの知恵としての圧倒的な必然性を持っています。毎日の身体のしんどさ、寝起きの悪さ。それを「根性が足りない」と片づける前に、あなたの寝床について考えてみてください。

マットレスを最優先する理由

 なお、僕は健康や快適さに課金するとき
「身体接触の多さ×使用時間の長さ」
という基準で優先順位を決めています。最も身体に触れ、最も長く使うものを最初に買うべきだと。

 この理屈でも、寝床は優先順位の1位になってきます。次にくるのは、スマートフォン、文筆業の僕にとってはキーボードとイス、あるいは肌触りのよい肌着、などでしょうか。多くの人に納得いただける考え方だと思います。

 寝具の中でいえば、(ベッドであれ布団であれ)マットレスが最も重要だと僕は考えています。腰痛持ちの方は絶対に必要なアイテムだとさえいえるでしょう。特に、体重のある方はできれば体圧分散機能のついたものを使うことを心からおすすめします。

 寝具選びはその人の身体に合わせて行うべきなので確定的にこれがいい、とはいえませんが、それなりのお値段のする良質な寝具は、投資以上の価値をもたらすことを約束させていただきます。反対に、中価格帯は「すべてが中途半端」という事態が頻発しがちなので、思い切ってよいものを買う価値はあります。

「健康とかそんなことより、お金がないんだよ!」

 その意見はよくわかります。僕も同じように考えていました。でも、身体を壊すと仕事ができなくなるばかりか、生活ができなくなります。そして、生活ができないと何ができなくなるかというと─全部です。お気をつけください。

 あなたの身体の修繕費は、たいていの寝具よりは高くついてしまいます。