しかし、汚染された海水から隔離し、生餌を与えずに育てた陸上養殖のサバにはアニサキスが寄生しないため、問題なく生食をすることができる。しかも生きたまま運ぶことができるので、鮮度を維持できるのも養殖の強みだ。

 海でしか取れないと思っていた魚が陸上で養殖できるという驚きと、今まで生で食べられなかった食材が生で食べられるということにピンときた石川さんは、これを新しいビジネスにしようと思い立った。

 石川さんが所属するビジネスプロデュースグループは、地域の雇用を生み、定住を促進する新たなビジネスを開拓する部署だ。地域に新たな産業が生まれれば、そこで働く人、住む人が増え、鉄道の地位向上にもつながる。長期的な視点で地域活性化を目指していく息の長い仕事である。

JR西日本によるサバの陸上養殖場JR西日本によるサバの陸上養殖場 写真はJR西日本提供

 それまで、JR西日本が保有する遊休地へのメガソーラー(大規模太陽光発電所)設置や、ホウレンソウの水耕栽培を行う農業ビジネス、保育事業などを担当し、実績を積んでいた石川さんではあったが、上司には「何を言っているのか。石川、おまえ正気か」と心配され、鳥取県からも「あなた鉄道会社の人ですよね?」と聞かれるなど、前途多難な船出であった。

 しかし、新しい形の水産業として陸上養殖の可能性に着目していること、新たな名産品が生まれれば現地で食べてみよう、鉄道に乗って行ってみようというニーズの創出も見込めることを説明し、納得してもらったという。

 当時、陸上養殖という言葉自体ほとんど知られておらず、大規模に陸上養殖を行っている企業も少なかった。そういった中、JR西日本という大企業、しかも異業種が参入することは驚きをもって迎えられた。