文大統領の政策スタンスは
どのように変わったか?

 米国が抜け、中国が積極姿勢を示したことで、TPPは「対中包囲網」ではなくなった。

 こうした国際情勢の変化は、今回、文大統領が政策スタンスを変える大きなきっかけになったとみられる。

 TPPに加盟することで中国に追随しつつ、バイデン政権の出方次第で米国との関係を修復することができるかもしれない。文氏にとってTPPの重要性は増している。また、貿易依存度の高い韓国にとって、TPPは世界の自由貿易の枠組みに入り、経済成長を目指す手段になり得る。

 その一方で、中国が本当にTPPに加盟できるかは不透明だ。国中心である中国の「国家資本主義」体制は、TPPの理念に反する部分が多い。韓国に関しても、TPPが定めたルールに従うことは口で言うほど容易なことではない。TPPをはじめ今後の世界経済は、米国のバイデン次期政権の政策姿勢に大きく影響されるだろう。

 TPPの当初の目的を振り返ってみよう。2005年、ニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、チリの4カ国は、貿易や知的財産、競争政策に関する協定を取りまとめた。

 2008年、米通商代表部(USTR。米国の通商交渉のための特別機関)はそれらに加えて、投資と金融取引に関する交渉を進める意思を表明し、同年9月に発生したリーマンショック後、米国は4カ国との交渉を開始した。

 その後、オーストラリアやベトナムなど環太平洋地域の国が参加し、多国間の経済連携協定(EPA)としてのTPP交渉が進んだ。

 米国が重視したのは、経済面から対中包囲網を整備して、アジア太平洋地域における中国の台頭を阻止することだった。

 TPPは、米国が重視する自由資本主義の価値観を根底に置き、自由貿易の推進と競争に関するルールの統一を目指した。TPPの関税撤廃率は99%に達する(日中など15カ国が参加したRCEPの関税撤廃率は91%)。

 また、TPPでは外国企業に技術移転を要求することの禁止や、ソフトウエアの設計図へのアクセス要求の禁止など、域内における公正・透明な競争環境の実現が目指された。それらは、外資企業からの技術の強制移転や、産業補助金によって自国企業の成長を目指す中国の「国家資本主義」の価値観と相いれない。

 しかし、2016年11月の米国大統領選挙で共和党候補だったトランプ氏が当選したことを境に、国際社会におけるTPPの位置づけが一変した。2017年1月に米国がTPPから離脱し、対中包囲網としてのTPPの意義は低下。その後、トランプ政権は中国への制裁関税に代表される対中強硬策を実施し、米中対立が激化した。

 中国では、インドやフィリピン、マレーシア、ベトナムとの関係悪化に加え、新型コロナウイルスの発生によって欧州各国やオーストラリアとの関係冷え込みに直面し、国際社会から孤立した。

 足元、中国は米国の政権移行に伴う政治空白を突くようにして、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)協定への署名やTPP参加への積極姿勢を示し、関税引き下げというコストを払って国際社会からの孤立を食い止めようとしている。それは、TPPが「対中包囲網」ではなくなっていることを意味する。