スタートアップがさまざまな経営課題を乗り越えて成長を遂げていくうえで、経営者に求められる要素とは何でしょうか?長期的な成長を目指すスタートアップのトップマネジメントに求められる7つの点と、そのなかで最も重要なトップマネジメントの「誠実さ」について考えます。

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トップマネジメントを評価する7つのポイント

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):私たちシニフィアンは、スタートアップが上場後も持続的に成長できるようなサポートを目指し、リスクマネーと経営面の知見を提供するグロースキャピタル「THE FUND」を運営しています。その立場から、スタートアップの成長可能性を、主に次の5つの視点で見ている、というお話を前回しました。

1番目が「経営チーム」、2番目が「事業の価値」、3番目が「上場企業候補としての耐性」、4番目が「財務体質」、5番目が「投資条件」です。

「経営チーム」をもう一段階深掘ると、「トップマネジメント」と「チーム」に分けることができます。「トップマネジメント」というのは、経営者個人のキャラクターや資質のようなものですね。スタートアップの場合は多くが創業経営者ですね。もうひとつの「チーム」のほうは、トップマネジメントを取り巻く方々の才覚や、関係性などのことですね。

今回は、前者の「トップマネジメント」により注目してみていきましょう。

われわれはトップマネジメントについて、以下の7点に分解して捉えています。重視している順に、1番目は「誠実さ」。2番目が「柔軟さ」、3番目が「芯の強さ」、4番目は「自分の限界に対する認識」。5番目が「知的体力」、6番目が「健全な野心」、7番目は「リーダーシップ」です。最重視しているのは「誠実さ」ですね。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):「誠実さ」、英語で言えば「Integrity」が重視されるのは日本だけではありませんよね。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):そうですね。「誠実さ」がなければ、そもそもその経営者の言動を信じてよいのか、投資家はもちろん社内外のステークホルダーに疑問を抱かせることになります。会社にまつわるあらゆる課題を最も把握しているのは、やはりトップです。良い面も悪い面も含めて、会社を取り巻く状況やトップ自身の認識を正しく誠実に共有していただけなければ、対話を通じて会社の事業価値を上げることも叶いません。

現状と課題を正しく認識し、共有してこその「誠実さ」

朝倉:ドラッカーの著書でも「integrity」という言葉は強調されていますよね。「誠実さ」自体は、ビジネスや経営以前に、そもそも大事にしなければならないことですが、同時に、多くの先人がこれだけ強調しているということは、実際に誠実さを貫くことが容易ではないということの証左かもしれません。

村上:そうですね。スタートアップの文脈で言えば、組織の状況や競争環境、財務の実情を正確に捉え、誠実にコミュニケーションしていただけるかが重要です。それこそが、経営者として最も必要な資質だと思っています。

小林:「誠実さ」という言葉は、一般的にさまざまな意味を包含していますよね。丁寧だとか、物腰がしっかりしているだとか……他にもいろいろあると思いますが、我々が重視している文脈で言えば、経営に必要な事実や考え方を棚卸しして、ステークホルダーや周囲の人々にしっかり示せるかどうか、です。ネガティブな情報もポジティブな情報も、包み隠さず両方開示できる姿勢が、最も問われると思います。

村上:この点、ブル(強気)シナリオだけを話すのが上手というのではなく、むしろ率先して一番ベア(弱気)なリスクシナリオを話せるかどうかで、誠実さの有無がある程度伺えるのではないかと思います。そうした経営者に対しては、接する周囲の人々もよりまっすぐに向き合わなければと自然に考えるんじゃないでしょうか。

朝倉:一方で、言うのは簡単ですが、弱みも含めて開示するということが実は難しい、というのもわかります。嘘をつく気はなくても、起業家や経営者は、ある意味で自分自身に言い聞かせ、極端な言い方をすれば自分をだまし切れるぐらいに、「自分たちのやっていることは必ずうまくいく」と自己暗示をかけなければいけない側面もある。世間から見ればちょっと変わり者だと思われるぐらいに、「俺たちは絶対いけるんだ!」と信じ込み、周りも巻き込んで鼓舞しなければなりません。

逆に、スタートアップを経営する人がすぐ弱気になっていたら話になりませんから。ベア(弱気)な経営者なんて、従業員も投資家もついていきたくないですよね(笑)。

結果として、悪気はなくても、経営者がついネガティブな話を避けてしまう、ということはありますよね。

小林:経営者がブルなのは、スタートアップなら当然だと思います。

自社のリスクを客観視するバランス感覚を

朝倉:自分を信じる気持ち、それが長じたある種の「現実歪曲能力」と、誠実にネガティブな話をすることは、実は相反する側面もあります。両方のバランスをうまく取るのは意外と難しいんじゃないでしょうか。何もかもが順調に進んでいる会社なんてありませんから。

小林:「経営者はブルであってはならない」という意味では、けっしてないんですよね。ブルなシナリオがある中で、それを客観視し、リスクと両にらみできるバランス感覚を持って「本当にできるだろうか」「リスクがあるとしたら、どういうことだろうか」と、冷静に見極められる。そういうことが大事なのかなと思いますね。

朝倉:外部に対して虚勢を張る方もいますしね。課題や懸念点を指摘されると「何を言っているのか意味が分からない」「そんな訳ないだろう」と怒り出す経営者もいらっしゃる。感情を前面に出さずとも、「大した問題ではない」と受け流したりすることもある。

こういう反応は、往々にしてリスクを直視するというバランス感覚を失っているサインに外部からは見えますし、その裏に隠蔽する意図が見え透くと、誠実さに欠けると捉えられてしまうのではないでしょうか。

村上:そうですね。経営者にとって「絶対にうまくいく」という戦略はないわけです。孫正義さんをはじめ、多くの経営者が共通しておっしゃるのは「51対49で勝てるならやろうか」という意思決定の感覚です。つまり、失敗シナリオも49はありえる、と考えている。その49について無視したり隠したりするのが不誠実だ、と言っているのであって、51の成功シナリオを信じてやり切る姿勢を疑っているわけではありません。繰り返しになりますが、大切なのはバランスだと思います。

朝倉:本当にブルで強い人なら、自分たちの至らない点や課題も真正面から直視して開示し、乗り越えていこうというタフさを持てるのではないでしょうか。課題のない会社なんてありませんし、きちんと胸襟を開いて話していただけるほうが、共に課題解決に取り組もうという関係性を築けるのではないでしょうか。

村上:「100%成功する」と言える戦略は絶対にない一方で、ほぼ失敗が見えている経営判断は避けてほしいですしね。ビジネスにおいて、成功確率は4~5割、高くても6~7割ではないでしょうか。そうであるならば、失敗する確率やリスクにどれだけ誠実であるかが重要です。積極的に踏み込みつつリスクを冷静に捉えるバランス感覚を持っているトップマネジメントは素晴らしいと思います。

*本記事は、signifiant style 2020/9/22に掲載した内容です。
(ライター:岩城由彦 記事協力:ふじねまゆこ)