被告は現在、あえて事件のあった自宅で妻と2人で支え合い、息子の供養を毎朝、毎晩しているという。また、友人や近隣から温かい言葉をかけられ、1600通余り集まった減刑嘆願書を2度、3度と読み返したそうだ。「改めて感謝とともに、自分はどうすべきだったのかを何度も考えたい」と話した。そして、「息子がアスペルガー障害の疑いがあると診断され、社会には精神疾患や障害を持っている人が数多くいるのに、人によっては支援の輪が届かない。今後、お手伝いできるなら手伝いたい」などとも述べた。

 一方、検察側からは、何も質問がなかった。

発達障害を持つ当事者は殺しても正当防衛
そんな風潮になるのが怖い

「当事者としては、量刑のことよりも『(発達障害を持つ)当事者は殺しても正当防衛になる』みたいな風潮になることが怖い。そういう空気を読めないところが、またつらいですよね」

 そう指摘するのは、関西地方の発達障害の自助グループであり、当事者会と家族会の31グループで構成する「さかいハッタツ友の会」の石橋尋志代表(42歳)だ。

 同会は、1審の判決後、発達障害の子を持つ両親向けに緊急声明を出した。石橋代表は当時、筆者にこうコメントしている。

「団塊世代の両親は、右肩上がりの昭和の時代に生きてきたから、頑張れば結果が出た時代だった。でも僕らがいま生きているのは、頑張っても結果が出ない時代。社会がまだ昭和の価値観を引きずったままだから、結果が出ない人は頑張っていないとみなし、自分の子をつぶしているのに気づいてない親が多い」

 被害者の長男は有名進学校に入学後、人付き合いが苦手で「いじめ」に遭った。1審の証人尋問で、母親は「長男が中学2年の頃からいじめられて帰ってきては私に当たった」「掃除ができず、『ごみ掃除しなきゃ』と言うと暴力を振るわれた」などと証言している。

 また、長男の主治医の精神科医は「環境を変えていくことが苦手でごみがたまる」「学校生活は相手の反応に応じて臨機応変に対応していかないといけない集団生活なので、強いストレスを受けて家で爆発したのではないか」と指摘。「対応できないイライラが、言葉以外の表現になることも多い」が、その表現は「相手を攻撃するのが目的でもない」とも話していた。

 長男が発達障害の「アスペルガー症候群」と診断されるのは、ずっと後の2015年になってからのことだ。掃除や集団生活が苦手だったことも、「(長男は)写真のように鮮明に覚えている。嫌な記憶に苦しんだ」(主治医の証言)のも、発達の特性の1つだったと推測される。もっと早い時期に長男やその家族らが、そんな特性への配慮や周囲の理解、必要な社会資源の情報を得られる機会があれば、違った展開になっていたかもしれない。