幹部クラスに「聴いてもらう」成功体験を植えつけるべき理由

――子どもにアクティブ・リスニングを教えるのと、大人に教えるのとでは違いはありますか?

:異なる点はあります。私はスタンフォード大学・オンラインハイスクールでアクティブ・リスニングを基礎にした教育を行っていますが、「決めつけないように」とか「エンパシーが大事だ」と原則を言葉で伝えても、生徒たちがそれを理解して行動に移すのは大変難しいと感じています。大人でも難しいわけですから、子どもにとってはなおさらです。

 教師が子どもの言うことを邪魔して「そうじゃない」などと否定ばかりしていたら、子どもはそれを見て、似たような行動をとるようになります。ですので、教師が生徒との対話のなかでアクティブ・リスニングを実践しロールモデルを提示することで、生徒が自然とアクティブ・リスニングの要素を体得できるように教えています。

なぜあの上司は人の話を聞けないのか?【「星友啓×篠田真貴子」対談前編】篠田 真貴子(しのだ・まきこ)
エール株式会社 取締役/株式会社メルカリ社外取締役 UWC ISAK ジャパン評議員/NPO法人かものはしプロジェクト理事
慶應義塾大学経済学部卒業。ペンシルバニア大学でMBA取得。日本長期信用銀行(現新生銀行)、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ノバルティスファーマ、ネスレニュートリションを経て、2008年、ほぼ日に入社し、取締役CFOを務める。2020年より現職。『アライアンス』(リード・ホフマンほか著、ダイヤモンド社、2015年)の監訳、『仕事と家庭は両立できない?:「女性が輝く社会」のウソとホント』(アン=マリー・スローター著、NTT出版、2017年)の解説ほか、ウェブサイトで洋書紹介など、幅広く活躍している。

篠田:エールでは、社会人に対してオンラインで一対一の面談を提供していますが、いま話が出た「ロールモデル」というアイディアと共通点があって、すごく腑に落ちました。というのも、エールのサービス導入を法人から相談していただくきっかけのなかでも多いのが、「上司と部下の一対一の面談『1on1』を導入したがなかなかうまくいかない」というケースです。

 そういう相談を掘り下げて分析してみると、1on1に関わる上司が「ちゃんと聴いてもらう」という経験がないままに上長になっていることがわかります。「聴いてもらってよかった」という経験がない人が他者の話を聴いても、成果を出すのはとても難しいです。

 ですので、まずエールのサービスを通じて「じっくり聴いてもらうとどんな効果があるのか」を上長に経験していただくと、今度は上長がロールモデルとなって部下との1on1を成功に導ける、といういい循環が作れるんです。

聴いてもらうと思考が整理されて深化する

:「上司」という話が出ましたが、聴くこととリーダーシップの関係はどうお考えですか?

篠田:聴くことはリーダーシップにとって極めて重要だと思います。しかし、聴くという行為が過去のリーダー像とは大きく違い、また真逆な面もあるために、「聴く」がリーダーシップの要素として認識されない、むしろいらないものとして扱われがちな傾向があると感じています。

 聴くこととリーダーシップの関係性についても、2つの誤解があると思っています。1つ目は、前に立ってあれこれ指示を出すのがリーダーであるという誤解。2つ目は、一度話を聞いたら行動に移さなくてはいけないという誤解で、部下が要望したことを実現してあげないと上長として失格なのではないかと思ってしまうということです。これらが全くの誤解だ、ということを繰り返し確認していくプロセスが必須ですね。

:私は米国に来て、上司が本当にしっかりと話を聴いてくれて、部下のやりたいことをサポートするように心がけてくれることに強く感銘を受けました。しかし、そうしたサポートを部下に提供するだけでなく、これからのヴィジョンを提示することも上司の役目です。どんな目標、どんなヴィジョンに向けてのサポートなのか?そのヴィジョンを提供するのが真のリーダーであり、自分が作り上げるヴィジョンに向けて全体をまとめて、それぞれの背中を押していく強いリーダーシップを提示できるのではないでしょうか。

篠田:その通りですね。話をじっくり聴いてもらった人、例えば部下は話を聴いてもらったことでひとまず安心します。安心すると、自分と異なる意見が上司から来ても用意が整っていて受け止めやすくなります。

 さらに、1回限りでなくずっとその関係がつながっていって、じっくり聴いてもらう機会が重なると、部下の考えや感情が整理されていきます。これはまさに上司の「サポート」ですし、部下自身の考えがより深まってクリアになり、または感情の起伏があったときも自分を客観視して、感情を仕事に生かしていくことが上手になるので、結果として上司もマネジメントが効率的になるんです。

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