「若い方が多かったですから、『親元に戻れば』とか『住民票のある自治体に行ってください』とかいう形の水際作戦も多かったです」(稲葉さん)

 5月以後、生活保護の申請件数は4月に比べて減少したが、年末を控え、また増加傾向にある。稲葉さんは、「また、4月と同じように水際作戦が増えそうだ」という危惧を抱いている。

「私たちは全件、同行申請する方針でいます。しかし、限界です。かなり疲弊しています」(稲葉さん)

 なお、稲葉さんはじめ支援者たちが2020年春から夏にかけて当事者とともに経験した不条理の数々は、岩波書店から11月30日に刊行されたばかりの書籍『コロナ禍の東京を駆ける: 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(稲葉剛・小林美穂子・和田静香著)に詳しく記されている。

テクノロジーによる
社会課題解決の可能性

 年末年始、「フミダン」は申請書作成だけではなく、ウェブサービスだけでオンライン申請を完結させる機能を、東京23区内限定で試験運用する予定だ。厚労省は各福祉事務所に対し、年末年始も生活保護の申請を受け付けられる体制の整備を要望しているが、実際に対応しそうなのは江戸川区だけだ。

「オンライン申請」といっても、ウェブサービスから申請書が送付される先は、各福祉事務所のFAX機だ。いわば、インターネットFAXの機能を利用したハイテクとローテクの結合、ハイテク側からローテク側への申請書送付である。「なーんだ」と笑われそうだが、このような技術への需要は、たとえば「事業所内の古く安定したシリアル接続機器を、インターネットから制御可能にする」といった形で、常に存在する。

 開発の中心となったのは、つくろい東京ファンドのスタッフ・佐々木大志郎さんだ。佐々木さんは、20代の時期に不登校を専門とするNPOに関わり始めた。2011年以後は、生活困窮者支援を行うNPOで、広報やファンディングや直接支援に関わり続けている。しかし、ICT技術を職業とした経験はないという。