『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

独学の達人が教える「家から一切出ないでできる学び方」2つの具体策Photo: Adobe Stock

[質問]
 私は現在ひきこもりです。常態化しています。焦りと不安ばかりで、なんとかしようと思うのですが、まるで動くことができません。

 読書猿さんにお聞きしたいのは、どうすれば行動できるようになるかです。なにもない生活ですので、ひたすらダラダラとしていて、社会復帰(つまり具体的な行動)のきっかけが何もありません。また、きっかけがあったとしても一歩踏み出す勇気すらない状態です。ずっとこのまま年をとっていくのは嫌です。けど何をどうすればいいのかわかりません。どうか知恵をおかしください。

「移動せずにできること」から始めてみてください

[読書猿の回答]
 理詰めでやるので少し長いです。状況の悪い側面は既にあなたが痛いほど集めておられるでしょうから、ここではまず、わずかながら存在する良い側面に注意を促したいと思います。

 まずあなたには、自分では何もしなくとも「このまま歳を取る」ことができるだけの生活を支えるリソースがおありのようです。1週間以内に何らかの収入か支援がなければ飢え死にしたり住むところを失ったりといった状況にもないように思います。またこうしてインターネットに接続できる手段も、他人に理解できる日本語を書く能力もお持ちです。

 そして最も重要な点ですが、自分が問題の当事者だと考え、何とかしなければと自分から私に質問を投げられました。これはものすごいリソースです(引きこもりでは親など周囲の人だけが相談するケースも多いのです)。

 以上のようなリソースがあるおかげで、あなたは「中長期的」な対策を、言い換えれば、一発逆転を狙うのでなく、〈スモールステップでできることを少しずつ着実に増やす〉という戦略を取ることができます。

 あなたが数日後には生命の危機にさらされるような窮状にあるならば、かわりに「緊急避難的」な対策を選ぶしかないので、これは大きな違いです。「緊急避難」はあくまでその場しのぎ、時間を稼ぐだけなので、問題を解決するものではありません。

 カーネマンらが指摘するように、人は「負けが混んでいる」と思うと、成功する確率は低いがリターンが大きそうな一発逆転の手を選びがちです。そして殆どの場合失敗し『やっぱり駄目なんだ」と落ち込むことを繰り返します。この悪循環を避けるには、〈スモールステップでできることを少しずつ増やす〉という、一見すると迂遠な戦略を選ぶことが必要です。

 そして、こう言ってはなんですが、自信をとことん失っておられる今こそ、こうした地味でささやかな努力を開始する絶好の機会です。

 では、何から始めればいいかを考えましょう。

 現在の問題が「ひきこもり」の状態にあることなので、その解決へ向けた方向は「行動・活動できる領域を少しずつ拡大していく」ということになるでしょう。

 そして最初の一歩は、「行動・活動できる領域」が最小のところでできることになります。つまり、〈今ここから移動せずに、自分だけでできること〉から始めるのです。

(1)呼び水としての筋トレをする
 たとえば筋トレです。最初は「怠け者の腹筋」と呼ばれるものがおすすめです。仰向きに床に寝て、そこから膝を折り曲げ腕で抱えて、その姿勢で体を前後に揺らすだけです。最初は数回で腹筋が筋肉痛になるでしょう。

 なぜ手始めに筋トレかといえば、筋肉のトレーニングは記憶学習よりも短期間で効果が実感できるので、他の学習の呼び水に使えるからです。

 学習がなぜ必要なのか。それは「行動・活動できる領域を少しずつ拡大していく」ことが、長期的な問題解決であるからです。「長期的」である理由は、問題を一気に解決するうまい方策が今すぐには望めないからですが、長期的な問題解決は必ず学習を伴います。なぜなら、今すぐはできないことを、時間をかけてできるようになるには、学ぶことが必須であるからです。

 どんなことであれ、自分で計画したことを毎日繰り返すことが、あなたには必要です。おそらく最初はうまくいかないことが多いでしょう。これこそが得られるものです。計画は、失敗を学習機会にします。続けていくためには、やりすぎないことです。たとえば先の腹筋なら、1日に1分間だけこれをやります。あとはこれまで通り何もせずにひたすらだらだらしていてください。そうこうするうちに「こんなくだらないことより、いくらかましなこと」がやりたくなります。

(2)「青空文庫」の音読をする
 腹筋の次は、音読がよいでしょう。青空文庫は、読んで楽しい名文揃いです(昨今のアタマにある情景を文字に起こしただけの小説とはひと味違います)。そして音読は、他人に理解できる日本語を話すための基礎となるものであり(腹筋はこのための基礎トレでした)、社会生活を支える基礎技術につながっています。