「テレビに出ずに全国を回って人と話してきたのでそれを本にしました」。ウーマンラッシュアワー村本大輔が一冊の本を12月16日に刊行した。彼がさまざまな地で見て、感じた“痛み”をつづった『おれは無関心なあなたを傷つけたい』というタイトルの本だ。村本大輔は現場で何を見て、どう感じたのか? 本連載では、本書の内容を期間限定で公開していく。今回は、“在日コリアン”について触れた「手作りキンパに想うこと」という項目の前編を公開。
朝鮮学校で目の当たりにした”痛み”
広島の独演会に毎回来てくれるご夫婦がいる。独演会終わりで声をかけてくれた。旦那さんは学校の先生をやっているらしく「ぜひうちの学園祭で独演会をやってほしい」と言われた。
正直、僕は高校生が好きではない。どうせおれの独演会なんか口をぽかんと開けて、「何意味のわからないことを言ってんだ、このじじい」的な感じで見られそうだし、いまもたまに街なかでチャリンコに乗った高校生たちに「村本ー!」「ウーマンラッシュアワー!」というバカ丸出しのヤジを飛ばされるから「高校生は全員こんなやつだ」と思い込んでしまっていて、ライトな漫才をしにいくならいいけど、社会の問題なんかを笑いを交えて叫ぶような僕の独演会で笑えるような高校生はいないだろうと思っていたからだ。
しかし、そのご夫婦は独演会に来るたびに毎回「学園祭で独演会をー」と言ってこられるものだから、こんなに時間とお金を使って来てくれるなら一回くらい、まぁいっかと彼の学校の学園祭に出ることにした。
東京から広島に行き学校に着くと、そこの生徒たちはチマチョゴリを着ていた。先生に理由を聞くと「ここは通信制の学校で、ここの生徒たちは朝鮮学校とこの学校、両方で勉強しているんです」と。朝鮮学校は高校卒業の資格を取れない、でも親のルーツのことも勉強したい、親が出た学校を出たい、と彼らは朝鮮学校と通信制の学校の両方で勉強していると言っていた。
朝鮮学校はほかの学校と違い、授業料が無償化されていない。だから彼らの親は昼夜働き、朝鮮学校の授業料を払っている。少しでもそんな親を楽にさせたくて、生徒たちは朝鮮学校の無償化を街頭で訴えていると言っていた。
でもこの日本には、個人で見ずに「朝鮮」というだけで子どもにも汚く幼稚な言葉を浴びせる人たちがいるみたいで、街頭で呼びかけをしている彼らのもとに街宣車で現れ、汚い言葉で暴言を投げかける。しかし、彼らは負けずに街ゆく人たちに声をかけ、ビラを配り、一生懸命、朝鮮学校の無償化を訴えている。独演会終わりにみんなで写真を撮ったんだけど、生徒は男子女子ともに本当にすごく可愛らしくて誠実で純粋だった。
彼らに暴言を浴びせる日本人、そして彼らをスルーする日本人がいるという現実を知った僕は、少しでも応援したいという気持ちでツイッターに「朝鮮学校に行ってきた。無償化のビラを配っているので、もし出会ったら受け取ってあげてください」と、写真付きで投稿した。
するとネットで激しい誹謗中傷が、彼ら高校生に向かって飛んできた。後日、その中の一人があまりにもショッキングな誹謗中傷にすごく傷ついている、と先生から連絡があった。とりあえず彼らの写真は削除した。
生徒からも連絡があり「私たちにかかわってくれてありがとうございます。村本さんにも迷惑をかけるかもしれないので、無理はしないでください。私たちにかかわってくれてありがとうございます」と言われた。
自分たちのことより相手を気にかける高校生。なぜ彼らはこんなに優しいんだろう、と考えたが、それはおそらく痛みを知っているからなんだと思った。
THE MANZAIの思いがけない反響
高校生なのに街頭で自分たちの主張を訴え、街宣車にののしられながら一生懸命、国とこの国の空気に訴える姿勢。
ずっと無関心だった僕は少し恥ずかしくなり、おれは何やってんだろうと、一昨年の年末の漫才にほんの少しだけだが彼らのことをネタに組み込んだ。
するとオンエア後に信じられないくらいのメッセージが届いた。ゴールデン、しかも、お笑いで、漫才で「朝鮮学校の無償化」という言葉が入っていることが衝撃だったらしく「家族でテレビを観ていたら、急におじいさんが泣いた。それを見てお父さんが泣いて、私が泣いた」というメッセージがあった。おじいさんの苦労を知るお父さん、お父さんの苦労を知る娘。
その前の年には沖縄の辺野古を漫才にした。そのときも同じような反響があった。ゴールデンの番組で漫才で、辺野古、高江というワードが出てくることに驚いたと。原発のネタをやったときも同じく反響があった。
僕は数年前からアメリカのお笑いをよく見ているけど、そんな社会問題や言葉は当たり前に出てくる。でも、この国では出てこない。なんなら、そういった言葉を出すだけで「笑いから逃げている」と言う人たちもいる。コメンテーターとしてニュース番組に出ていても、専門家に任せて、あとはやんわり核心をそらす芸人たちこそ、笑いから逃げているように見える。それはただのテレビ村で生き延びたい人たちの家畜忖度根性を正当化しているだけに思える。
そして再び、朝鮮学校へ
そして最近、再び朝鮮学校に行く機会があった。大阪の独演会に来てくれる女性が大阪にある朝鮮学校のお母さんの会の人だった。彼女は僕をつかまえ、「ザマンザイを観まして、ぜひ、村本さんに、うちの朝鮮学校で独演会をやってほしい、子どもたちが元気ないので元気つけてほしい!!」と凄まじいマシンガントークでまくし立ててきた。彼女のパワーに圧倒され、街宣車に煽られる高校生たちの気持ちが少しわかった気がした。笑
しかし、広島の先生とは何度も話していて関係性もあったから協力したいと思ったけど、その朝鮮学校のお母さんとは面識もほぼなかったから少し迷った。それでも、あまりに何度も独演会に来ては「来てほしい!」と一生懸命に言ってこられるので、マネージャーに話をつないだ。
しかし、朝鮮学校はお金がない。吉本の提示する学園祭の料金を支払うことは難しい。そこで僕は提案した。無料でやらせてくれと。しかし条件がある。無料でやる代わりに好きな話をさせてくれ、と。
好きな話とは日本人の僕が見てきた「在日朝鮮人」の話だ。たとえば僕が高校を辞めて植木屋でバイトをしていたとき、焼肉屋の駐車場の植木の仕事をやっていて、そこの娘さんと友達になった。その話を違う会社の人に話したら「朝鮮人やぞ、話すな!」と怒られた。
大阪のカラオケでバイトをしていたときは、「新人のバイトの金本くん、あれ在日やで、言ったらあかんで」と言われた。なぜ言ったらダメなのかわからなかった。日本に住む外国人は、みんな在日なのに、なぜか朝鮮の人を呼ぶときだけ「在日」と呼ぶ空気にも疑問を持った。
とにかく僕が見てきた様々な「彼らの話」をさせてくれるなら、本気で話せるなら無料でやると言った。それでオッケーをもらい、当日、なんばグランド花月の裏口に朝鮮学校の子どもたちのお母さんが車で迎えに来てくれ、僕は彼女らに連れられて大阪の朝鮮学校に向かった。
【後編に続く(後編の公開は2020年12月27日を予定しています)】
(本原稿は、村本大輔著『おれは無関心なあなたを傷つけたい』からの抜粋です)