「テレビに出ずに全国を回って人と話してきたのでそれを本にしました」。ウーマンラッシュアワー村本大輔が一冊の本を12月16日に刊行する。彼がさまざまな地で見て、感じた“痛み”をつづった『おれは無関心なあなたを傷つけたい』というタイトルの本だ。ここ数年、村本大輔はプライベートでも各地に足を運び、当事者と直接話し続けてきた。彼は現場で何を見て、どう感じたのか? 今回は、本書に掲載されている「被災者は声を隠す」という項目の一部を期間限定で公開する。

「千羽鶴はいらない」ウーマン村本大輔が現地で聞いた被災者の声photo:Adobe Stock/© acchity

被災者は声を隠す

 僕はよく被災地に行く。被災した人たちと話したくて。

 ある被災地に行ったときの話だ。地元の人たちと一緒に飲ませてもらう機会があった。おれは彼らに「何か不安はある?」と聞いた。すると「ありません。やってもらえるだけありがたい」と言われた。おれは思った。そんなわけない、と。

 被災地を回っていつも感じるのが、「やってもらえるだけありがたい」と言わないといけない空気だ。被災地の炊き出しには、ラーメンとか牛丼とか、そんなパワーフードばかりが出るんだけど、なかにはサラダを食べたい人やヴィーガンの人もいるだろう。彼らが「野菜を食べたい」としごく当たり前のことを言いにくい状況に疑問があった。

 なぜなら、地震は誰のせいでもないからだ。明日、そうじゃない人たちの住むところにも地震が起こり、被災する可能性がある。だから、地震があったら倍幸せになってほしいと思っている。

 日本政府は地震手当をやったらいい。オリンピックとか戦争の道具に高い金をかけるのにも理由があるんだろう。でも僕は、地震があったら最悪だけどラッキーって思えるような国になってほしい。なぜなら、この国はどこよりも地震が多い国なんだから。

 僕は被災者の本音が聞きたかった。だから、聞き続けた。「何か不満はありますか?」と。それでも彼らは続ける。「やってもらえるだけありがたい」と。僕は彼らにきつめの酒を飲ませた。そして聞き続けた。

「本当は? 本当は?」

 彼らもお酒が回ってきたのか、しばらくしておれの尋問に白状することにしたようだ。「じゃあ! 言わせてくださいよ!! ぶっちゃけ言いますよ!! 最近、みんなでこんな救援物資は嫌だというランキングを付けているんですよ!!!」

 おれは「よっしゃー!!!!!!」と叫んだ。それが欲しかったのよ。おれの勘は当たった。人間はそのポジションで話をする。大人というポジション、学校の先生というポジション、右派左派のポジション……そんな話にはなんの面白味もない。おれは被災者というポジションで話していた彼らの本音が聞けた。これは”被災者”の本音ではなく”彼ら”の本音だ。

 おれは彼らから、たくさんの「こんな救援物資は嫌だ」を聞いた。これをおれは漫才にして、舞台の上に持っていってたくさんの人たちに広めると約束した。彼らからは言えない、彼らが言えば叩かれるから。だから「村本さん言ってくれ」と言っていた。彼らはコミュニティの中に属して生きている。被災者全員がそう思われてしまう可能性がある。だから彼らは言えない。

 それならここは、テレビには出ていないのに『日経エンタテインメント』の嫌いな芸人ランキング3位のおれが言ってやろう。叩かれ慣れているおれが言ってやろう。ここに書かせてくれ。