『スタートアップとテクノロジーの世界地図』では、基本的にスタートアップと呼ばれる誕生して間もない企業を取り上げるが、急速に大企業へと成長し、スタートアップを卒業した、いわば「スタートアップ卒業生」についても一部触れている。なかでも今後のグローバルなテクノロジーの方向性を知るためには、アメリカの「GAFA(ガーファ)」つまりGoogle、Apple、Facebook、Amazonと、中国の「BATH(バース)」つまりBaidu(バイドゥ)、Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)、HUAWEI(ファーウェイ)の今についても言及しないわけにはいかないだろう。
 今回から数回は、スタートアップを取り巻く環境の基礎知識として、また20年後の未来を予測するための補助線として、これらの企業の現在を紹介する。

ビジネス常識として知っておきたい「GAFAの最新状況」Photo: Adobe Stock

ハードウェア・ソフトウェアからサービスへ

 GAFAは今や世界中の人々の生活インフラとなり、その事業スタイルや革新性は多くの企業に影響を与えている。2020年10月末時点のGAFAの時価総額は、いずれも世界ランキング10位以内で、4社の時価総額合計は500兆円にも及ぶ。ここにMicrosoftを加えると、日本のGDPや、東証一部上場企業の時価総額合計を上回る。

ビジネス常識として知っておきたい「GAFAの最新状況」

 10兆円近い流動資産を持つAppleなど莫大な資金力を有するGAFAが、今どこにいて、これからどこに向かっていくのかは、新しく事業を興そうとするスタートアップにとって生き死にに関わるトピックといえる。

 ここでいったん、テクノロジーがどのような形で人々の生活に浸透していったかについて解説しよう。ひと昔前に一世を風靡していたのはハードウェア産業だった。汎用機、大型ホストコンピュータを皮切りに、サーバ、パソコン、スマートフォンなど、工場をもち、実際のモノを生産する「製造業」としての機能が重視されていた。旧来型の家電や自動車メーカーもこれにあたる。人々も、モノとしての製品のスペックや価格を追い求めていた。そしてハードウェアのビジネスは、基本的に売り切りであった。

 ハードウェアがある程度進化し尽くした次に、差別化の源泉となったのがソフトウェアだ。「Software eating the world」といわれるほど、テクノロジー企業はソフトウェアの開発に重きをおいた。いまスマートフォンを購入しようとする人は、メーカーごとのハードの違いよりも先に、AndroidかiOSかを確認するだろう。

 そして現在、大手IT企業はハードウェアやソフトウェアの先にあるサービスへと差別化の重心を移している。Microsoftは以前、PC向けのオフィスツール「Office」を買い切り型で販売していた。バージョンアップには対応しておらず、新しいバージョンが発売されれば数万円を支払って購入する必要があった。しかし「Office」は現在、年単位・月単位に定額を支払うサブスクリプション型の販売に移行しており、PCだけでなくタブレットやスマートフォンにも対応して商品満足度を向上させている。

 ではこの「サービスの時代」に、GAFAはどのようなビジネスを提供し勝ち残ろうとしているのだろうか。

サービスに重点を移し顧客満足度を上げるApple

 1976年の創業以来、Appleはハードウェアに革命を起こしてきた。MacBookやiPhone、タブレット端末iPadなど、洗練されたボディにはファンが多く、Apple社製品を持つことは1つのステータスとなっていた。

 同社を成功に導いたのは、1977年に発売されたパーソナルコンピュータ「AppleⅡ」だ。もともとハードウェアに強いAppleだが、当時からMacOSやiOSにつながる、グラフィックやUIにすぐれたソフトウェアも開発している。

 さらにもう1つの成功は2007年に発売された「iPhone」だろう。「電話を再定義する」という創業者スティーブ・ジョブズによるプレゼンテーションで発表された同製品は瞬く間に世界中を席巻。日本でも当時、防水やワンセグ、バッテリーのもちなどでは先行していたガラパゴス携帯を駆逐し、携帯電話市場の過半数のシェアを手に入れた。同年、同社は社名から「コンピュータ」という言葉を外し、本業は常に変わり続けることを示唆したと同時に、実際の利益のほとんどはiPhoneになった。

 しかし、2015年頃からiPhoneの販売の成長が鈍化した。特に中国ではHUAWEIやOPPOが同機能のスマートフォンを半額ほどの金額で提供しているため、iPhoneのシェアは非常に低い。そのため、サービスを充実させることでハードウェアに付加価値を付け、ユーザーを引きつけ、囲い込む戦略をとったのだ。ものづくりに強かったAppleがハードウェアからサービスへと転換していることは近年では最も興味深い動きと言えるだろう。

 その1つが、2019年に提供を開始した年会費無料のクレジットカード「Apple Card」だ。このカードはiPhoneやApple Watchなどのデバイスに搭載されたApple Payで使用することも想定して開発され、支払いのデータは専用アプリで表示される。また手元に届くチタン素材の磁気カードにはクレジットカード番号が記載されておらず、非常にシンプルだ。このカードで買い物をすれば1%、カードをApplePayに紐づけて決済すれば2%(Appleのパートナーであれば3%)がキャッシュバックされる。ユーザーは買い物をする際にApple Payが使用できるかどうかを店側に確認するため、ユーザー自身がApple Payのアンバサダーとなり、店側にApple Payの需要が高いことを認識させることができる。カード発行元のゴールドマン・サックスも国際展開について言及しており、今後日本に上陸することが期待されている。

 もちろんAppleが「サービス」として提供するのはAppleCardだけではない。サブスクリプション型の動画配信サービス「AppleTV+」やゲームプラットフォーム「Apple Arcade」を提供している。動画ではスティーブン・スピルバーグ、ゲームではファイナルファンタジーシリーズの坂口博信と組んだオリジナル作品の制作を発表しており、他の動画サービス、ゲームサービスとの差別化を図っている

 そしてアメリカでは、Apple watchの健康情報と連動するフィットネスプログラムも開始し、まとめて月額3000円程で提供している。こうしたGAFAによる「おまとめ」での囲い込みは「Amazon Prime」と同じ戦略で、今後も主流になるだろう。