手を緩めることなく研究開発を続ける
元祖サービスカンパニーAmazon
世界最大級のマーケットプレイスを提供するAmazonは、EC以外にも音楽や動画配信サービス、クラウドサービス、実店舗経営など幅広い展開をしている。もともと書籍をECで販売するところから始まった同社は、GAFAの中では元祖サービスカンパニーといえる。
プリンストン大学卒業で、金融業界出身の創業者のジェフ・ベゾスは、1994年の創業以来一貫して「いかに顧客の生活を便利にするか」を実直に追求している。その理念に沿い、同社では常にカスタマーサービスにフォーカスし、商品の即日配達や書籍・音楽・ビデオの定額制サービスをまとめ「Amazon Prime」を提供。さらにはドローンによる配達実験など次々と新しい試みに挑戦している。
Appleを創業したスティーブ・ジョブズにも通ずるところだが、「何が欲しいか」というニーズを顧客から吸い上げるのではなく、「これがあれば便利だろう」というものを自発的に発想し、提供している。その一例が、スマートスピーカー「Amazon Echo」だ。アレクサというAIアシスタントに話
しかけると、音楽を再生したり、質問に答えたり、Amazonから商品を購入してくれる。このスマートスピーカーのコンセプトを口頭で説明して必要かどうかと聞かれれば、顧客はNoと回答しただろう。しかし、Amazon Echoを実際に開発し販売したらヒットした。消費者は自分たちが経験したことのないものは必要か否かの判断さえつかない。それならば、製品化して経験してもらえばいいというのが同社のスタンスだ。実際、成功した製品の裏には独自の携帯電話「Fire Phone」など多くの失敗作品もあるが、撤退も非常に早い。
Amazonは今後ますます消費者の生活の中にサービスを浸透させていくだろう。アメリカでは「Amazon Key」(現在は「Key by Amazon」)の提供を開始した。インターネットに接続された自宅の鍵をAmazonの配達員が開け、配達先としてガレージや車内、自宅内を選べる。将来的には冷蔵庫の中に収納するところまでしてもらえるだろう。鍵を解錠すると自宅に取り付けたクラウドカメラが作動し配達員の行動を録画するため、セキュリティ上も安心だ。AmazonKeyの登場は、同社が介護サービスや家事代行サービスの事業を展開できる可能性を示している。
Amazonでは次の一手としてスマート冷蔵庫の開発に着手している。食品の賞味期限を把握して自動で発注するところまで完結するという、彼らの目指す世界観を叶えるデバイスがまもなく登場するだろう。また、スマートスピーカーのAmazon Echoは車載版も登場し、ガソリンスタンドでの支払いにも対応する予定だ。レジなし店舗Amazon Goの展開も開始しており、こうなるとスマートホームだけではなく、それを切り口にスマートシティまで制覇しそうである。
同社がただのEC事業者たりえないのは、徹底してデータを収集し、顧客サービスのためのAI開発に力を入れている点と、ジェフ・ベゾスの特筆すべき先見性にある。2000年代前半、EC事業がメインだった時期に、いち早くクラウドサービスのポテンシャルに気づき、取締役会の反対を押し切ってクラウドサービスAWSの開発を推進した。これはクラウド事業の中の先駆けとなり2020年現在の世界シェアは1位になっている。
これまでさまざまな試行錯誤を繰り返してきたAmazonだが、そうしたチャレンジができるのも株主から信頼を得ているからだ。Amazonでは事業で上げた利益を徹底して研究開発に投じる。日本企業の年間研究開発費はトヨタの約1兆円が最大だが、Amazonでは実に4兆円を研究開発のために確保する。その額は世界最大だ。データと巨額な研究開発費を持つAmazonは、GAFAに中でも特に大きなポテンシャルを秘めた野心的な存在だ。
ソフトウェア開発に長けたGoogleは
ハードウェアとサービスを強化
1997年スタンフォードで博士課程にいた2人の学生、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンによって創業されたGoogleは、検索エンジンに始まり、インターネット広告、Webページのアクセス解析ツール、独自のOSを搭載したスマートフォンやスマートスピーカーなど、さまざまなWebサービスを提供する。
同社は企業買収を通じて大きく成長してきた。動画配信サービス「YouTube」や携帯OSの「Android」イギリスのAI企業「DeepMind」がその例だ。Googleは外部の知見を積極的に取り込んできたと言える。
Webサービス以外にも、ヘルスケアや再生エネルギーなど事業を拡張してきたGoogleは、事業推進を目的として2015年に持ち株会社Alphabetを設立。同社を親会社として、検索エンジン、クラウドサービス、ウェブブラウザの開発を子会社であるGoogleが受け持ち、その他の派生プロジェクトはAlphabet傘下に再編された。Google以外には、長寿の研究をするCalico、自動運転車プロジェクトのWaymo、気球をつかったインターネット接続サービスLoon、ドローン配達サービスのProject Wingなど、人類の課題をテクノロジーで解決しようとする事業体が連なっている。
Googleはソフトウェアこそ他社に抜きん出るものの、ハードウェア開発についてはもう一歩という印象が拭えない。そして同社の最大の弱点はカスタマーサービスだ。たとえば、Google Shoppingは使い勝手が悪く、配達やカスタマーサポートが非常に弱い。しかしながら、AIの技術は高く、ソフトウェア開発に関しては比類なき企業だ。今後、ソフトウェア開発のスタートアップを志しているのであれば、Googleが何をしようとしているかマークしていく必要がある。
コミュニティインフラとしての強みを活かす
Facebook
Facebookは2004年創業当時、ハーバード大学の学生に限定してソーシャル・ネットワーキング・サービスを提供していた。その後、他大学へも展開すると、2006年からは一般ユーザーにも開放された。創業者のマーク・ザッカーバーグは、学生時代に大学のサーバをハッキングして保護観察処分を受けたという有名な逸話をもつが、Facebookを立ち上げたあとの彼は、社会問題を追究する思想家になりつつある。
Facebookが主導する暗号資産「Libra(リブラ)」は、世界中の人が金融サービスを受けられるようにするというザッカーバーグの思想が根幹にある。VRやアバターの開発にも力を入れており、人々がいつでもどこでもコミュニケーションできる世界の実現を目指す。
Facebookの弱点もハードウェアだ。2018年には家庭向けスマートディスプレイ「Portal」をリリースしているが、市場の反応はいまいちだった。また、クラウドサービスは弱く、AI技術も相対的には長けていない。だが、Facebookはそうした自らの弱点をわかったうえで、Google、Apple、Amazonが重点的に手がけていない領域、たとえばVRやスーパーアプリ化(日常生活のさまざまな場面で活用できる統合的なアプリとなること)を狙っている。何よりも、ユーザー数25億人というコミュニティインフラを有している点が最大の強みだ。多くのビジネスの源泉となる「誰が何に興味を持っているかという実名のデータ」を一手に持つFacebookを他社は羨んでいる。