元JT副社長・新貝康司氏元JT副社長・新貝康司氏 Photo by Toshiaki Usami

数々の功績を残したトップリーダーたちは、「ネクストリーダー」に就任した際、何を考え、どう行動していたのか。ネクストリーダーに必要な心得を、前回から元JT副社長の新貝康司氏に聞いてきた。新貝氏は、英国ベースのグローバルたばこ企業ギャラハー社を2兆2500億円で買収し統合を成功させるなど、海外大型M&AによってJTを世界企業へ飛躍させた立役者の一人だが、そこへ至るまでに培い、備えてきたリーダーに必要な資質について聞いた。

※前編「一流のリーダーは『変化を嫌う組織』をどう動かしたか、元JT副社長・新貝康司氏に聞く」こちらから。

リーダーに必要な「洞察力」は
30年先を見通し、今を見る力

 私はつねづねリーダーには、4つの資質が必要だと考えています。それが、「洞察力」「巻き込み力」「胆力」、そして高い「成人発達度(意識構造)」です。

 まず、「洞察力」とは、単に先を見通す力ではありません。それを踏まえた上で自分たちの将来あるべき姿と、現状とのギャップを認識し、逆算して今やらねばならないことを明確にすることまでを指します。これは、自分たちの組織が向かう先をビジョンや目標として示すことです。JTを例にすれば、(そのとき 私がリーダーだったわけではありませんが)専売公社からJTに変わった際、10年後のたばこ国内市場のピークアウトを洞察し、その時点までになにをやらなければならないか、それを明確化したことです。

 また、組織というものは成功すると、必ずその成功の中に失敗の種が胚胎します。現状維持バイアスが働いて、変わろうとしなくなるのです。そうしたことにも目配りができなくてはなりません。

 さらに、どれだけ立派な事業でも、時代とともに創業者や創業時の理念は希薄になります。その一方で事業環境は目まぐるしく変わります。今のようにVUCAの時代であればなおさらです。当初は、ある商品・サービスが社会課題を解決していたとしても、後には社会に負の影響をもたらし新たな社会課題を発生させてしまうことすらあります。

 どんな事業にも光(便益)と影(社会への負の影響)があり、完全無欠な事業はありえません。影をいかに低減するか、あるいはカニバリがおきてでも自らが新たな商品・サービスで新陳代謝をするかといったことでさえ不断に考えることが必要です。

 新型コロナのような不測の事態に際して、企業に必要なのは、レジリエンス――困難や逆境の中にあっても決してくじけず、状況に即して柔軟に生き延びようとする力、そして、アジリティをもって ピボット する能力――単なるスピードではなく、機敏に状況に即応して、方針転換、方向転換していくことです。「君子は豹変す」という言葉もありますが、そうした企業のレジリエンス、アジリティとピボット を体現し、旗振りをするのもまたリーダーです。