報道されない性犯罪の客観的証拠、タブー視が生む「二次加害」とはPhoto:PIXTA

性犯罪の報道では、証拠や具体的な証言が伏せられることがある。被害者への配慮などからだが、伏せられることで読者が違和感を覚え、「性犯罪は証拠もないのに有罪になる」といった誤解を生むことがある。性犯罪の被害者への偏見が残る社会で、報道「しない」ことによる二次被害を考えたい。(フリーライター 小川たまか)

4件続いた性犯罪無罪判決、うち3件が逆転有罪に

 今週、東京高裁で、ある性犯罪事件の判決が言い渡された。

 当時12歳の長女に対して性虐待を繰り返した父親が、強姦罪に問われた事件。東京高裁は、一審静岡地裁の無罪判決を破棄し、懲役7年の逆転有罪判決を言い渡した。

 この事件は、2019年3月に4件続いた性犯罪無罪判決のうちの1件。4件のうち1件は控訴が断念されたが、2件は高裁で逆転有罪となっており、今回の判決が出たことで4件中3件が高裁で逆転有罪となった。

 同じく実父からの性虐待事件であることから、今年の3月に名古屋高裁で逆転有罪判決(上告棄却で確定)となった19歳実子への事件と間違われやすいが、今回判決が出たのは一審が静岡地裁の別の事件である。

性暴力の報道は正しく伝わっているか

 今回の事件で、一審で無罪となった理由は、端的に説明すれば、性行為が行われた証明がなされていない、と判断されたからである。広いとは言えない家で、隣に妹が寝ている状況で犯行が繰り返されたにもかかわらず誰も気づかなかったのは不自然などとされた。

 一方で、高裁の判決は長女の証言に「高度な信用性」があるとし、証言を信用できないと判断した一審に事実誤認があったことや、裁判官の被害者への尋問に問題があったと指摘した。また、証言と矛盾しない客観的証拠もあることから、逆転有罪を言い渡している。

 当日に出た報道は軒並み短文で「高裁では被害者の証言が信用できるとされた」といった内容を伝えるものだったが、このような内容では、読者の中には、地裁と高裁、どちらに説得力があるのか判断がつかないと感じる人もいるはずだ。

 読み上げに45分以上かかる長い判決文の内容を、メディアが端的にまとめることは難しい。また、性犯罪の場合、その内容から被害者の証言や物証が極力伏せられることがある。

 しかし、それによって、「性犯罪は被害者の証言だけで有罪になる」とか、被害者の証言に具体性がなかったというような誤解を招く場合がある。報道側がタブー視することによって、性犯罪裁判や性暴力の問題が伝わりきっていないのではないかと感じることがある。